記憶にあるのは、30代半ば以上の年齢の人になるだろうか。見た人だったら、きっと忘れない。
1997年、夕方の空、少しずつ場所を変えながら、何日も何日も、長く尾を引く彗星が見えていた。
特に頑張って探そうとしなくても、自然と目についた。
前年の百武彗星も肉眼でも良く見え、かなり明るかったと思うけれど、それでも暗くなった空でぼんやりとした光の塊くらいにしか見えなかったと思う。
20世紀の大彗星、ヘール・ボップ彗星が地球に最接近したのは、1997年3月22日のことなのだそうだ。
百武彗星、ヘール・ボップ彗星と2年続けて明るい彗星を見られたせいで、その貴重さが充分わかっていなかったかもしれないけど、あれほど明るい彗星には、あれ以来会っていない。
そして、彼らに会うことは、もう二度とない。
そして、見られなかった他のほとんどの彗星にも、もう二度と会うことはない。
まあ、星になったら、もっと近くで見られるのかもしれないけど。
世の中、すべてのことは、だいたいそんな感じだったりする。
すごく貴重なことだったのに、その時はわかっていなかった、とか。
当たり前にまたあることだと思っていたら、もうなかったり、とか。
だから人は「毎日を大切に生きよう」みたいに言いたくなったりするんだろう。
それはそうかもしれないけど。
でも、毎日真面目に生き過ぎていると、疲れてしまうし、世の中のすべてのお得なものを取り込むことなんて、土台できるはずがない。
適当に真面目に。適当にテキトーに。それくらいの感じでもいいんじゃないかと思う。
時には損をするけれど、時には得をする。
「あの時、ラッキーだったな」ってあとから気が付くだけでも、結構良い。
ヘール・ボップ彗星がなくても、3月22日の空に星はなくならない。
(学芸員 うさぎ)
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