こちらはかなり以前に中古で求めたアマデウス弦楽四重奏団によるブラームスのカルテット全集(1959、60年録音)。上がドイツ盤、下が日本盤で、どちらもグラモフォン・オリジナルス・シリーズとして初登場した時のプレスです(1998年)。
CDの場合、同じリマスターによる同時期の製品であれば、LPほどには海外盤と日本盤の差は出ないと感じていましたが、このアマデウスの録音は何に起因するのか驚くほど再生時の音質と音場が異なります。4つの楽器が並んだ左右のバランス、音の柔らかさ、潤い、繊細さ、等々において日本盤の方がずっと好ましく感じられました。これは私の弦の音への好みに合うという事でもあり、むしろ本当はエッジの利いたドイツ盤の音の方が、ステレオ初期のグラモフォンの原音を素直に再現しているのかも知れません。
新規で日本人技師がリマスターしたCDならば、総じて左右の幅を広めに取り、柔らかめの感触に仕上げられている事が多いと私は感じていますが、同じドイツでの新リマスター音源を使用した盤であっても、時にこれと似たような傾向が生まれるというのは興味深い現象です。むろん日本盤にそうした微妙な「音いじり」に関する説明書きはありません。
CDの詳しい製作工程は知りませんが、ただ本国から音源を借り受け機器任せに右から左に生産するだけでは、おそらくこうしたバランスの補正までは出来ない。そこには何かしら、音に敏感な人間の耳を働かせた仕事が施されていると考えていいように思います。

それが悪いと言いたいのではなく、数枚の中からより好ましい音に感じる盤が見つかるのであれば大変結構な事です。毎日のように次々と別の演奏を漁るのも良いですが、もしこれはと思う好きな演奏(録音)があるなら、試みに二枚以上のプレスの異なるCDをじっくり聴き比べてみると、耳慣れた演奏から思わぬ発見をしたり、感動を新たにすることが出てくると思います。