ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調
作品104
パブロ・カザルス(チェロ)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ジョージ・セル
録音:1937年4月 
発売:東芝EMI GR-2012(LP)

このカザルスの演奏は、バッハの無伴奏組曲セットを吹き込んだ1936と1939年の合間に位置し、ナチス・ドイツに併合される前のチェコを訪れた時に現地楽団と共演した録音である。
LPでも割合新しい時期のGR盤のため、本来の音圧や奥行きは出ていないかも知れないが、CDよりは独奏の音が生々しく、近い年代の録音に聴こえるのが嬉しい。このチェロの巨匠がまさに心技一体、独奏家として揺るぎない貫禄を示していた頃であり、土の香りを含んだ、溢れ出るような豊かな音色で曲の真髄を伝えてくれる(こういう層の厚い響きは先ずガット弦でないと出てこない)。
鬼気迫る技巧の充実ぶりも素晴らしく、同時にまた巧すぎて音楽を冷たくしていないところが、カザルスの音楽への慈しみ、奏者としての品性の高さを物語っていると思う。欲を言うなら管弦楽の指揮がセルでなければ、もっと独奏チェロとの間に熱い相乗効果が生まれただろうが、自然な感興の流れを断ち切るかのような冷めた音楽づくりは、どうも戦前からのこの指揮者の流儀だったようだ。

演奏の創造性が際立っていた20世紀前半の録音を聴くと、確信にみちた名演と出会う事が多くあり、現代の録音芸術よりもはるかに、凝集された人間の体温が盤に刻まれている感じがする。このレコードも、カザルスの雄弁な表現によって、おそらく原曲以上の価値を生んでいる例の一つではないかと思う。