
ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー
録音:1953年5月18日 ベルリン、ティタニア・パラスト(実況録音)
発売:2020年・グランドスラム GS-2214(オープンリール・テープからの復刻CD)
1953年、シュナイダーハンがベルリン・フィルハーモニーの定期でフルトヴェングラーと共演したベートーヴェンの協奏曲。本家盤となるドイツ・グラモフォンのCDを私は所持していないので、オープンリール復刻固有の長所を見極めることはできませんが、テープの揺れも少なく、全体の印象として録音時の会場の緊迫感をよく伝えているCDではないかと思います。
シュナイダーハンは曲の古典的な品位を尊重しながらも、ロマンの香りを漂わせた独奏を繰り広げます。コンサートマスターの仕事をした人ならではの技巧の細やかさがあり、音楽への揺るぎない集中力も持っています。ただフルトヴェングラーのベートーヴェンと言えば、戦時中のエーリッヒ・レーンの他にユーディ・メニューインと共演した3種の録音が残っており、中でも47年のベルリン実況盤と53年のセッション録音は心技の充実をきわめた盤として名高い。天衣無縫、爽やかな高山の風を思わせるメニューインの音を記憶している者にとって、容量の小さいシュナイダーハンの楽器は風格においてやや物足りなく感じられる。楽器の性能と言っても、彼ほどの奏者が自分の好まないヴァイオリンを渋々使ったとは考えにくいので、その点を含めて演奏者の音楽性、表現意思と見なすしかないでしょう(ボスコフスキー、バリリ、シュヴァルベなどの名コンサートマスターも、独奏の大作を弾く時には同様の軽さが出てしまう)。
しかし線は細くともシュナイダーハンは真摯に曲に向き合い、大巨匠の振る名門楽団とよく渡り合っている。彼の音盤はあまり数多く聴いていませんが、ここでは聴衆を前にしたライヴという事もあり、指揮者の音楽に触発されて普段よりも情感の濃い表現スタイルを取っているようです。そしてフルトヴェングラーがベルリン・フィルを振ったこの協奏曲のうちで、最も時期が新しく音質良好なのが当録音。メニューイン盤でのフィルハーモニア管弦楽団、ルツェルン祝祭楽団とも異なる、味の濃い弦のハーモニーがえも言われず魅力的で、彼のベートーヴェン解釈を知る上でも価値の高い記録ではないかと思います。