◯シューベルト:交響曲第8番 ロ短調 D.759「未完成」
NBC交響楽団
指揮:アルトゥーロ・トスカニーニ
録音:1950年3月12日、6月2日、ニューヨーク、NBC 8-Hスタジオ(セッション)
この4月に日本盤のブルー・スペックCDとして再登場した「トスカニーニ名盤コレクション」からの一枚。
元々所持していた盤はCDでなく昔の国内LPのみ。演奏の熱が直接的に再現されるレコードの音はやはり別格と言う他はありませんが、新技術を生かしたBS-CDは大変精細な音に仕上がっていて好ましい印象を受けました。
トスカニーニは早めのテンポを保ち、あまり停滞感や粘りを見せず、しかし重要な箇所は弦に濃密な表情で歌わせる。比べて木管の表現が割合ストレートなのはこの「未完成」に特有のことではなく、管楽器群にあまり情緒的なヴィブラートを付けないこの指揮者の流儀だと見てよいでしょう。全体としてベートーヴェン録音にしばしば聴かれるような力みかえった傾向はなく、古典的造形を重んじた端麗な部類に入る演奏ではないかと思います。
音型が常に明瞭に示され、聴き取りにくい弱音はほとんど出てこない。普通なら無味乾燥になりかねない楷書風のスタイルにもかかわらず、人間の血と情が音に潜んでおり、曲への内面的集中度が高い演奏です。
また「未完成」は自分にとって、シューベルトの交響曲中で唯一、他の作家には求めがたい魂の刻印が感じられる作品です。フルトヴェングラーのEMI盤、ワルター、カラヤンのグラモフォン盤など、好きな演奏はなかなか一つに絞り切れないのですが、トスカニーニ盤はこのシューベルトの名作の真実の一面を確かに伝えてくれるものだと思っています。
