◯「モーツァルト歌曲リサイタル」
エリザベート・シュワルツコップ(ソプラノ)
ワルター・ギーゼキング(ピアノ)
録音:1955年、ロンドン
発売:2014.8.20 ワーナーミュージック・ジャパン CD(2014年リマスター)

何度かこのブログで取り上げている名盤なので詳しくは書きませんが、当CDの解説者が「聴く者に人生の豊かさを思い起こさせる名唱」と述べている通り、心の深いところにまで訴えかける気品を持った声楽アルバムです。名花シュワルツコップ最盛期の歌唱を聴くと、いかに交響曲やピアノ・ソナタが立派でも、オペラやリートを抜きにモーツァルトの天賦の才を語ることはできないという思いを強くします。

シュワルツコップによるモーツァルト、シューベルトの歌曲集は確かに美しい。「珠玉」という形容も不似合いではないですが、単に完成度が高いという次元ではなく、極まるべきところまで極まった曲の姿、精髄を感じさせるものです。仮に他の歌手たちが正確な歌唱力、癒し系やクリスタル系などと言われる美声をもって挑んでも、知性に支えられた凛とした佇まいにおいて彼女を凌ぐことは至難ではないかと思われます。

何度聴いても感動を新たにする音と言葉の魅惑的な邂逅。二十年、三十年と聴き込んでいても、解釈のあざとさが見えてくるどころか、こちらの経験値に応じてさらなる音楽的年輪と格調を加えてゆくような不思議な力を秘めている。ハンス・ホッター、セーナ・ユリナッチ、あるいはイタリア・オペラのマリア・カラスなどと並んで、私にとっては数多の名曲の価値と切り離すことのできない歌い手の一人です。