写真家・山本皓一さんが二年半にわたる密着取材の末上梓した「田中角栄全記録」(1985)には、華やかなりし頃の目白邸(通称・目白御殿)が詳しく紹介されています。本書は田中氏の姿はもちろん、目白邸、軽井沢の山荘、柏崎市西山の実家という、私的な空間の内部までを撮影した唯一の本で、奇しくも田中氏が脳梗塞で倒れる直前の1985年1月30日に出版されています(ちなみに1993年12月、角栄さんの葬儀の時には、山本さんが撮った写真が遺影として使用されました)。
掲載されているのは、田中軍団が最高の勢いを誇っていた時期でもう40年も昔になる。目白邸はその当時でもかなり築年数の経っていた建物で、よくある贅の限りを尽くした成金趣味の御殿ではなく、むしろ質朴な雰囲気の昭和の大邸宅といったところです。
誤解を受けやすいのですが、角さんの途方もないスケールの仕事には沢山の人々を応接するための広い空間が必要だったのであり、リーダーとしての立場上それ相応の見栄も大事になる。決して自身が贅沢をするための豪邸ではなかったことが、この写真集をご覧になった人はある程度察しがつくだろうと思います。
現代ではなかなか見ることのできない渋みのある昭和建築で、できれば文化人の記念館と同様に後代まで手厚く保存してほしかったものです。

○1984年放送の「角栄ひとり舞台」という番組で、角栄さんは目白台の私邸で1時間半にわたり自らの生い立ちや人生観を縦横に語り尽くしました。断片的な映像が多い中で、角さんの人柄を伝える極めて貴重な記録ではないかと思います。⏬