「二宮翁夜話」四二に伝えられている二宮尊徳の箴言。孔孟、老荘、菜根譚、一斎の言志四録と同様に、尊徳の説も古さを帯びず、厳しい響きをともなって現代人の胸に刺さることが多いです。
「商法は、売って悦び、買って悦ぶようにすべし。売って悦び買って喜ばざるは、道にあらず。買って喜び、売って悦ばざるも道にあらず。賃借の道も亦同じ。」

我が身を振り返ってみると、確かに尊徳の言は当を得ている。「売って悦び、買って悦ぶ」。長く事業をするうちには、種々の事情から、欲しくはないが仕入れざるを得ない品が出てきますが、それが運よくお客に渡ったところで何となく気分は晴れやかになり切らないものです。詐欺ではないが、やや複雑な気持ちになる。逆に自分が買い手として魅力を感じたヴァイオリンならば、売った相手方の喜びも相応に深いものになり、その深い感激はそのまま当方の喜びに繋がります。

「売って悦」ぶのは一応はたやすい。しかし単に「売れれば勝ち」というのは全くその場しのぎの浅薄な考えで、長期的視野に立てば、お客に「買って得をした」と思ってもらえることが商いを継続する上で最も理想的でしょう。それには第一に「買って悦ぶ」、つまり物の良否をよく見極め、自分が純粋に欲しいと願う品を入手することが前提になります。