これは晩年のカラヤンが指揮したモーツァルトのディヴェルティメント第17番・K.334。大変高雅で奥ゆかしいモーツァルト演奏で、発売時から35年間も愛聴してきた音盤です。
録音データは「1987年4月、ベルリン、フィルハーモニー」。通常、クラシックの音盤でライヴ収録という表記が無い場合はセッション録音と考えるべきで、今までその事に疑いを持たずにいたのですが、カラヤンとベルリン・フィルは同年4月30日のフィルハーモニーホールでのコンサートでK.334を演奏しており、私は当時NHKで放送された実況音源をカセットテープに録音していました。その少し後にCDが発売された時、中学生ながら演奏の雰囲気がラジオの音源によく似ていると感じたものでした。しかし同じ楽団による同時期の演奏だから解釈が似通っていても不思議はないと思い、敢えてそれ以上の追究をする気にはならなかった。
ところがつい最近、YouTubeでこの4/30のライヴ音源を見つけたので改めて聴き直してみた。やはりCDと酷似していると感じ、試みに出だしのタイミングを合わせてCDとYouTubeを一緒に再生してみた。すると第1楽章の展開部前までは一秒の狂いもなく音が重なることが判明した。それ以外の楽章でも見事に音が平行する箇所が幾つもあった。
100パーセントではないと思いますが、かなりの部分で30日のコンサートの音源が使われているという確信を持ちました。終楽章の末尾は拍手こそ消去されていますが、第1ヴァイオリンがやや下がり気味の音程で終わるという共通点から推しても間違いなくライヴ音源だと思います(ただしコンサートでは第5楽章をカットしているので、ここだけは丸ごとセッション録音ということになります)。
クラシック・ファンの中には、カラヤンの録音の完璧さが継ぎ接ぎや修正の産物であるかのような偏見を持っている人がいます。彼がライヴ録音の商品化に大変慎重であったことがそうした誤解を生む一因なのかも知れませんが、このディヴェルティメントのCDは、カラヤンとベルリン・フィルが一発勝負の実演においてもレコード録音並みの高度な芸を披露できたという一つの例証になり得るでしょう。また、私見ですが、彼らの実況録音では残念ながら日本公演よりも、本拠地ベルリンやザルツブルク、ウィーンでの演奏の方が一層音楽づくりが緻密であったように感じています。
〇4/30、ベルリン・フィルハーモニーホールでのコンサート音源⬇️
〇当CDの演奏(1987年4月、ベルリン、フィルハーモニー)⬇️