
不思議なることこそあなれ
吾は夜こと百濟ほとけに
抱かれて寝る 勇
吉井勇の自詠和歌茶掛。
近年、文人墨客、歴史人物などの遺墨は価値の下落が甚だしく、この軸もかつての筆者の知名度を思うと信じがたい価格になっていましたが、さすがに表装は立派な洒落たものです。高級紙の紫紙(しし)に、金粉をニカワで溶かした金泥(きんでい)で書かれた珍しい作品で、雅やかな吉井勇の歌風にはこういう凝った仕立てがよく合います。
作者、年代、地域がいまだ正確に特定されていない法隆寺の百済仏(この名称は大正期以後。それ以前は法隆寺側のこだわりもあって虚空蔵菩薩と呼ばれていたそうです)。亀井勝一郞、会津八一ほか、この仏像の奥ゆかしい佇まいに惚れ込んだ文人は多くいますが、京都の歌人・吉井勇も大層心を捉えられた一人で、仏への愛惜を込めた和歌を幾つか残しています。
