◯パーセル: トリオ・ソナタ第9番 ヘ長調Z.810「黄金のソナタ」
◯ヘンデル: トリオ・ソナタ ト短調 作品2-8
◯ヴィオッティ: 二重奏曲 ト長調(ペータース版、第2巻第3番)
◯シュポーア: 二重奏曲 ト短調 作品67-3
◯シュポーア: 二重奏曲 ニ長調 作品67-2
ジョコンダ・デ・ヴィート、ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)
レイモンド・レッパード(ハープシコード)
ジョン・シャインボーン(チェロ)
録音:1955年
発売:グリーンドア音楽出版(CD)
選曲の地味さから一般にはあまり注目されない種類のレコードかも知れないが、ヴァイオリン音楽を真摯に聴いているファンの間ではこの二重奏曲集はなかなか評価の高い一枚だった。LPも裏表でこの通りの曲目だったと思う。CDではグリーンドアが板起こし盤をリリースする以前から、本家EMIが幾度か復刻盤を出している。
聴けば聴くほどに、銘器の何とも知れない旨味が心に沁みてくる音盤で、この四半世紀の間、何十度となく全曲を聴き通しては感銘を新たにしてきた。誇張ではなく、今ではもう実際に盤を鳴らさなくとも記憶の中で演奏が楽しめるほどになってしまっている。
名手二人のヴァイオリンは器用さを売りにする芸とは程遠いながら、語り口はことのほか雄弁で、思いの丈を込めた伸びやかな奏法による掛け合いが清らかな和気と香気を醸し出す。録音音質も演奏の本質を捉えた自然なもので、弓使いの卓抜さのみならずオールド楽器のニスの褐色までが眼前に浮かんでくるような趣きがある。
楽器の持つ包容力と演奏の骨の太さでは大家メニューインに分があると思うが、デ・ヴィートという人の特徴である表情の濃い歌い回しがこれに見事に絡み、高次の一体感が生まれている。この2年前に吹き込まれたバッハの二重協奏曲が最初の共演だったが、その時以上に音楽を通じた両者の精神的な絆が深まっているように感じられる。
神々しい輝きを放つパーセルと、諦観さえ感じさせる渋い味のヘンデルに私は特に心を動かされるが、ヴィオッティ、シュポーアの演奏も決して期待を裏切る質のものではない。又、こういう衒いのない演奏は聴き過ぎて飽きるということがない。最盛期にあったメニューインとしても内面、外面ともに充実した記録の一つではないかと思う。
