暑い夜に粛々と盤洗浄。
これは70年代初頭プレスのブッシュ四重奏団『死と乙女』のLP。約半世紀の垢を丁寧に落としてやると、発売当時の立体的でみずみずしい音がよみがえることもある。
洗剤を水でよく流したあと、新聞紙の上で長時間おいてから再生。まだ音に雑味が残るようなら、再度同じことを繰り返してみる。
盤自体がすでに針で擦り切れている場合は、洗っても雑音が出る。しかし洗浄することにより、汚れと擦れ、どちらが再生不良の原因だったかが見極められる。


盤の擦れはなく、傷もほとんど無し。綺麗な音。CDでは再生されないディテールがよく聴き取れるようになったが、78回転のノイズカットをもう少し控えめにしていたら、演奏の生々しさがさらに浮き彫りになったかも知れない。
1936年、ロンドンでの録音。表情は厳しくとも、音質はあくまで柔らかく包容力がある。CDでも最初の点は分かるけれども、LPでは後の二点がよく感じ取れる。
曲に追いすがるかのような求道的な姿勢が深い感動を呼ぶ。もう行くべきところまで行き着いた名演奏という感が強い。これ以上の『死と乙女』は聴けないだろうし、また無くても差し支えない。音楽よりもっと大事なものが沢山ある人たちには実現できない演奏ではないだろうかと思う。