
久しぶりに『鬼平犯科帳』を買い直して読んでいる。来年また新たに映画化されるとの事で、書店の目立つ場所に並べてあったのが本を手に取るきっかけだった。
正直なところ、鬼平に限らず現代のキャスト&スタッフによる時代劇は、現代っ子が被り物をしているように見えて上手く感情移入ができないでいる。1950年代に全盛だった東映の時代劇映画が下火になった頃、御大・片岡千恵蔵が、時代劇はたえず作り続けていないとその伝統様式が廃れてしまうと心配していたが、なるほど昨今の時代劇を見ると、役者の所作、セリフ回しがどうも血肉化していないように思える。派手なカメラワークや照明、その他の舞台装置が古風な時代感を損ねている面もあるかも知れないが、かつての主役、松本幸四郎→丹波哲郎→萬屋錦之介→吉右衛門らの創出したどっしりとした風格の鬼平像にどこまで迫ることができるのか、一応は見届けたいと思う。
左上:松本幸四郎
右上:丹波哲郎
左下:萬屋錦之介
左右:中村吉右衛門
個性、相貌はそれぞれに違えど、彼らはみなホンモノの武家の人間、剣術使いに見えたものだった。このうち、歌舞伎畑でない俳優は1975年の丹波哲郎のみ。歴代で最もダンディでリアルな凄みがある平蔵だった。次いでは近年まで長期で演じた吉右衛門が印象深い。
しかし、あえて映像の力を借りなくとも、この一話完結の短編の面白さ、緊張感は、活字だけで十分に味わえるもの。池波文学は台本に近いような簡潔な文体の中に世情の奥深さをよく盛り込んでいて、毎度その洗練された手腕に感服させられる。
新しい文庫本は、活字が大きくて見やすくなった半面、視点移動とページめくりの頻度が高くなる。個人的には、もう少し一行あたりの文字数が多いほうが読みやすいかなと思う。

