Biddulphレーベルから新発売されたミッシヤ・エルマンの1950年代録音集。チャイコフスキーとヴィエニアフスキの小品12曲(1952)と、ヴィエニアフスキのヴァイオリン協奏曲第2番(1950)がカップリングされた一枚。

私は師弟関係や出身地などに個人の芸風のルーツを見ようとする考え方が好きではないが、ロシアのアウエル門下からジンバリスト、ハイフェッツ、エルマンという歴史に残る重要なヴァイオリニストが三人も出ていることは、確かに驚嘆に値する現象だと思う。各々がピース物に沢山の名演を残している奏者であり、戦前の書物によると、エルマンの美しい音は小品録音でとりわけ高い評判を取っていたようだ。

ここでは全盛期の脂の乗ったエルマン・トーンは影を潜めているとはいえ、小品、協奏曲ともに巨匠の風格と滋味が伝わる演奏だ。CD化の際のノイズカットのせいか、LP再生の時に感じられたふくよかな音の厚みがやや目立たなくなっているのは惜しまれるが、過去にBiddulphが出した名奏者の復刻に比べて像が非常にくっきりしているのはこのCDの長所だろうと思う。

エルマンのフレージングは全盛期の頃から自在でおっとりしていて、場合によってはやや能天気にも聴こえるものだった。地方的な気風を残す演奏と言っていいと思うが、そこには曲をよく知った人ならではの落ち着きが同時に感じられ、この個人の感覚を通じて聴き慣れた名曲を味わい直してみようという気にさせられる。今日の若手奏者のような耳をつんざくような非情さを以てせず、エルマンはヴァイオリン本来の美を裏切らない愛すべき芸を聴かせてくれる。技巧をふんだんに盛り込んだヴィエニアフスキの小品もそれぞれに面白いけれども、それ以上にチャイコフスキーが私には魅力的で、曲全体に垂れ籠めた憂愁の情がこちらの胸を締めつけて離さない。


以下、タワーレコードの商品ページより引用。⬇️

【曲目】

ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-1893)
1. 無言歌 Op. 2 No. 3(F. クライスラー編)
2. スケルツォ Op. 42 No. 2(F. クライスラー編)
3. アンダンテ・カンタービレ - 弦楽四重奏曲第1番 ニ長調 Op. 11より
4. 感傷的なワルツ Op. 51 No. 6(D. J. Grunes編)
5. 弦楽セレナード Op. 48~ワルツ(L.アウアー編)
6. ただ憧れを知る者だけが Op. 6 No. 6(M.エルマン編)
7. 『白鳥の湖』~ロシアの踊り(Lange編)

ヘンリク・ヴィエニャフスキ(1835-1880)
8. レジェンデ Op. 17
9. マズルカ ニ長調 「Dudziarz」 Op. 19 No. 2
10. マズルカ ト短調 「Chanson polonaise」 Op. 12 No. 2
11. マズルカ イ短調 「Kujawiak」Op. 3
12. ポロネーズ・ブリランテ 第1番 ニ長調 Op. 4
13-15. ヴァイオリン協奏曲第2番 ニ短調 Op. 22
【演奏】
ミッシャ・エルマン(ヴァイオリン)
ジョゼフ・シーガー(ピアノ)・・・1-12
ロビン・フッド・デル管弦楽団・・・13-15
アレクサンダー・ヒルズバーグ(指揮)・・・13-15
【録音】
1952年9月23、25日、10月7、9、14日…1-12
ニューヨーク、Victor Studio No.2
/初出:RCA Victor LM1740
1950年6月23日…13-15
フィラデルフィア、アカデミー・オブ・ミュージック
/初出:RCA Victor LM5