フィストゥラーリ指揮の「白鳥の湖」はモノラルとステレオと合わせ計3種の録音が存在する。この61年のコンセルトヘボウとの抜粋盤は音質が良く、LP時代には大絶賛する批評家もあったようだが、演奏内容そのものから言うと音楽の運びにある種の生硬さがつきまとっていて、この名バレエ曲についての我々の常識的な理解を大きく越えるところがない。かなり以前にCDを手放し、SACDでは如何にと思ってこのたび一縷の望みを持って聴き直してみたが、やはり「白鳥」の神髄に触れた気はしなかった。ばかりか所々でわざとらしい唐突な表現も聴かれる。

フィストゥラーリの実力が最高度に発揮され、その上質なセンスが楽団のアンサンブルにくまなく浸透しているのは、70年代録音の全曲盤だろう。比較していただくと、曲数の違いを抜きにしても音楽の感興の豊かさ、音色の洗練度に格段の差があることに気付かれると思う。


🔼全曲盤の素晴らしさについては過去に数度取り上げたことがあるので、ここに繰り返さないが、感銘の深さでは50年代にロンドン交響楽団と録音したモノラルの準全曲盤がこれに次ぐかと思う。しかしモノラル盤のフィストゥラーリなら、老練なアンセルメ/スイス・ロマンドの全曲盤(1959)の方が巨匠的風格と柔軟性があって好ましく感じられる。