クラシック音楽の盤収集では、同じアーティストによる、同じ曲の複数の演奏、いわゆる「同曲異演盤」を持っている人が多いと思います。私の場合はそれに加え、主に歴史的音源において、同曲の同演奏を複数所有している例がよくあります。
違う演奏なら買って比べてもいいが、すでに持っている録音を別プレス、別リマスターだからといって買い直すのは勿体ない、と思う人もあるでしょう。私も基本的には同じ考えなのですが、愛着の深いアーティストの演奏になると、少しでも理想的な音で再現できるCDが見つかればと思い、つい新カッティングのCDに手を出したり、中古で輸入盤や初期プレス盤を求めたりします。
較べた結果、より瑞々しい精細な音に出会えることもあれば、昔から持っている初期プレス盤が一番癖が無くてまっとうだと再認識する場合もあります。どちらかと言うと後の例が多いのですが、実際は初期盤もリマスター盤もその性格はさまざまで、良し悪しについては実地に当たって確かめる他に方法は無いでしょう。

また音質というのは、演奏と同じように過去の経験に培われた自身の感覚を通して感じ取るものです。客観的な測定にはなり得ない。そして盤の再生に関しては録音会社やアーティストでなく、われわれ一般消費者一人一人の手に委ねられます。したがって条件となる自宅の室内環境、再生機器の性格やセッティングなどが聴こえ方に大きく影響してきます。
そんな事を考えていると、数種類の同音源を取捨選択することが、聴けば聴くほど容易でなくなる。後付けのエコーがかかっていたり、ピッチがずれて調が変わっていたりという、話にならないレベルのものは手放しますが、ついに絞りきれず複数枚持っている演奏が沢山あります。
しかし私の職業柄なのか、その音の比較が苦にならないどころか、むしろ鑑賞における楽しみの要素の一つともなっています。ひとりの人物の顔を真正面から見たり、斜め右や左から見て、立体的映像として記憶するようなものでしょうか。

一例。
ブッシュ弦楽四重奏団による、ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番 作品131。
英国盤二種と日本盤。
私が好きなのは、まったく不満がないわけではありませんが、この新星堂企画の日本盤です。⬇️