2013年9月、店舗ブログの方でご紹介したことのある、ランドフスカ晩年の名録音です。

チェンバロでもピアノでも、彼女の演奏は常に生き生きとした創造性に富み、先ず凡演に当たる心配のない人ではありますが、とりわけ当盤は際立った余情を持つ名演奏です。モノラル末期のRCAの録音音質も、ランドフスカ自邸内の空気を生々しく再現する理想的なものです。
意思を明確に伝える技術、レガートとスタッカートの対比の妙、タッチそのものの奥ゆかしさ、ノスタルジックな香り。優れた点を挙げると際限がなくなってしまいますが、一言でいうなら典雅なことこの上ないモーツァルトです。「神品」と讃えても大げさではない。古典音楽を聴く時間がどれほど人間に幸福をもたらす尊いものであるかを、賢者の両手が静かに諭している気がする。また此処には、モーツァルトへの長年の親愛の情をしるした辞世の句のような雰囲気が漂っており、刹那的ではない悠久の美の世界へと我々をいざなってくれます。
老成が似合うのはブラームスやベートーヴェンの後期作品ばかりではない。奏者の人生経験、年輪が曲そのものの芸術性を深める例はモーツァルトにもあります。

K.311の第2楽章⏬
この楽章は殊に胸に沁みます。