〇モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 K.551『ジュピター』


ロンドン交響楽団

指揮:ハンス・シュミット=イッセルシュテット

録音:1958年7月1日 ロンドン、ワトフォード・タウン・ホール

(併収:交響曲第39番)

マーキュリーの初期ステレオ方式による目覚ましい音で残されたイッセルシュテットの名演奏。「ジュピター」はモーツァルトの交響曲としては構築的でスケールが大きく、流麗さと筋骨の逞しさが両立しなければならない曲です。もちろんモーツァルトの音楽だから前提として格調高い響きも求められますが、それらの条件を満たすレコードとして、ベーム/ベルリン・フィル盤(1961年)とこのイッセルシュテット盤、あとカラヤン/ベルリン・フィル盤(1970)をよく聴いています(カラヤン盤には人間的な熱っぽさもあり、珍しくアンチで売っていた宇野功芳氏がこの70年盤を高く評価していました)。

ロンドン交響楽団の演奏は統一されたピッチ、正確を期したアインザッツ、湖水のように清澄な響きを特徴としており、数ある英国楽団に共通する造形への美意識を感じさせるものです。弦の厚みでは当時のフィルハーモニア、ロイヤル・フィルにやや劣り、ベルリン・フィルとは更なる質量差が出ますが、ここでは巨匠イッセルシュテットの厳しくも温かい音楽づくりに懸命に応えていて、熱量の高い感動的な光景が展開します。

イッセルシュテットはきめ細かい堅実な指揮をする人で、録音により多少の体温差は出るとしても統率力には大変優れたものを持っています。デッカ録音のベートーヴェン全集の頃より数段若々しい雰囲気があり、直線の力を基本としながら所々に微細な曲折、強弱を付けて様式感のあるモーツァルト像を構築してゆく。胸に支えるような嫌味な癖がなく、一音一音を大切にした清潔実直な態度には、この曲の表現に欠かせない男性的な覇気が漲っています。

↑一応、紹介の意味で動画を貼り付けておきますが、できるなら正規音盤の繊細な音で味わっていただきたい演奏です。