ブリュッセルを拠点にしたカルテット、ハイドン弦楽四重奏団(The Quatuor Haydn)の復刻CD。
(グリーンドア・GD-2041)
先ず使用した初期LP「英HMV CLPC14」、「TELEFUNKEN LB6035」(K.387)の品質と、元の録音が相当に良いのだろうと想像しますが、優れた弦アンサンブルが実演に勝る生々しい音で眼前に迫ってくる素晴らしい復刻です。弦楽器の質感がここまで本当らしく再現されるなら、CDとしては価値ある逸品と言って良いでしょう。
この三曲はいずれもモーツァルトの四重奏の名品と言ってよく、私には後期交響曲以上に感銘深い。作品の魅力そのものだけに陶酔していられるなら、時間の空費も散財もしなくて済むのですが、私はモーツァルトやベートーヴェンが大好きな上、ヴァイオリンの音にも高い香気を求めてしまうので、かえって心が許容する演奏の幅が狭くなるのが困るところです。音楽、絵画、書芸、食の道・・何でも好きな道が出来ると、自己の定めた基準に従って眼が厳しくなるのは当然かも知れないが、こと音盤となると、演奏が理想に叶っていても、CDへの復刻次第で芸術本来の生命を失う場合が多々ある。ことによると高貴な芸がヒステリックな喚声に堕するなど、音質上の些細な問題とは言い切れない違いが出ることは、ヴァイオリン好きの人なら幾度となく経験されているかと思います。

この録音の年代は調べ切れていませんが、戦後の即物的な演奏様式が台頭した時期に当たると思われ、奏法としては現代に近く、戦前からの団体のようなポルタメントやルバートは多用していない。けれども音楽の横の流れは滑らかで、実に雄弁な語り口をもつ。誰が聴いてもヨーロッパの音楽の伝統的な味、それもややローカルな色合いを含んだ渋い輝きを感じないわけには行かないでしょう。
曲そのものはK.590「プロシア王第3番」が最も壮重でモーツァルトらしからぬ響きを持っていますが、ハイドンSQの音は重心が低く据わっており、美しくも骨太な表現を聴かせる。快活なK.458、優美で心和むK.387、曲ごとに趣を異にするモーツァルトの個性を入念に描き分けています。