「Grand Slam Records」は著作権の切れた歴史的音源の復刻で好評を得てきたレーベルで、最近ではオープンリール・テープを使用したCD制作で一定の評価を得ています。
ところが、ここ何年もの間、「レコード芸術」の誌上ではGrand Slamの新譜広告を見かけなくなった。私は不思議に思っていたのですが、2014年頃に某大手レーベルが、Grand Slamなどの復刻メーカーの広告を出し続けるなら今後は広告掲載をやめる、とレコ芸側に圧力を掛けていたという記事を読んだ。CDが売れない時代になって大手メーカーも四苦八苦の状態なのでしょうが、これが事実なら、合法的に商品を作っている会社に対してずいぶん卑怯な工作をしたと言うべきです。
盤鬼・平林直哉さんのプロデュースする復刻盤は、本家レーベルが気にするほど市場での認知度が高くなっていたという事でしょう。大手レーベルは、何と言っても大巨匠たちの息吹きの詰まったマスター・テープを保有しているのだから、本来は最も消費者からの信用を得やすいはず。使用する機材のグレードもマイナー・レーベルとは段違いらしい。その贅を凝らしたリマスターCDに飽き足りない人が大勢いて、Grand Slamやオタケン、グリーンドアなどの新興の復刻レーベルに期待が寄せられているのだという事実を、大会社は広告の妨害などする前に、虚心に受け止める必要があると思います。

〇ホルスト:組曲『惑星』作品32
ウィーン国立歌劇場女声合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
録音:1961年9月5~22日 ウィーン、ゾフィエンザール
発売:2018年 Grand Slam Records (CD)
2トラック、38センチ、オープンリール・テープ復刻(制作:平林直哉)
昔、LPと並行して市販されたオープンリール・テープというのは、本家レーベルが保管するマスター・テープから見れば、コピーのコピーのコピーくらいに遠いものらしい。それと意識して聴くと、確かに音擦れや左右の振れなども散見される。けれどもノイズ・リダクションを行っていない分、大元のマスターから作っているはずの本家盤よりも音の成分が豊かです。倍音がよく出て、厚く、柔らかい。そして録音当時の、その場特有の空気が伝わる。
ウィーン・フィルの絃は高音まで品よく再現されており、早いデタシェの箇所など、月下のさざ波に砂金を撒いたように美しい。アンサンブルが粗いとか、カラヤンは5拍子の指揮が上手く出来ていないとか、色々厳しい事を言う人もあるようですが、音楽的な面でこれだけ生気に富み、まとまりを感じさせ、かつ録音まで極上なら十分すぎる値打ちがあります。また、昔のウィーン・フィルをよく知る人は、リズムが正確過ぎないところが楽団固有の魅力にも繋がっているという事をよくご承知だろうと思います。
カラヤンの新盤(ベルリン・フィル・1981年)と当ウィーン盤は、好みで選ぶべきところでしょうが、彼の指揮はホルストでもワーグナー、マーラーでも、つねに絃楽器の存在が金管や打楽器に飲み込まれないように配慮している。大編成の作品にスケール感を求めても、野蛮な雰囲気を帯びない。このバランスが崩れて品格を貶めている『惑星』の録音が結構多くあり、曲自体のイメージまでを俗悪にしているのが残念なところです。