
モーツァルト:セレナード第7番 ニ長調 K.250『ハフナー』
トマス・ブランディス(ヴァイオリン・ソロ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:カール・ベーム
録音:1970年5月 ベルリン
ハフナー家の令嬢の婚礼前夜祭のために書かれた、全8楽章から成るセレナード。通して聴くとやや寄せ集めの感が無いでもなく、また華やかな曲調からして芸術性が浅いと感じる人も多いようですが、祝典的で変化に富み、若い活力に溢れた素晴らしい作品です。交響曲のような形式上の制約が少ない自由なパレットの上で、モーツァルトの魂が愉しげに生き生きと躍動するさまを見ることができます。
録音は1970年。ベルリン・フィルは1955年以来、常任指揮者カラヤンの薫陶を受けて、非常に精錬された技術的にも類のないアンサンブルを聴かせるようになっていました。洗練された美しさと質実剛健なスケール感という、なかなか両立できない長所が見事に合一され、世界中のレコード・ファンの心を虜にしました。
その肥沃な土壌に一音一音を堅実に丁寧に再現するベームのテイストが加わったような趣きがあり、彼のモーツァルトとしては思い切りの良い、非常に推進力のある音楽に仕上がっています。私は交響曲やレクイエムを始めとするカラヤンのモーツァルトを高く評価する者ですが、最も関わる時間の長い常任指揮者の芸風が、所々でそのまま顔を出しているのが面白くもあります。しかしベームの指揮では職人気質の真面目さが貫かれていて、やはり全体の印象としてはこの指揮者ならではのいぶし銀的な世界を構築しています。
クライスラー編曲によるヴァイオリン・ピースとしても知られる第4楽章のロンドが聴けるのが、この曲の楽しみの一つ。当盤ではトマス・ブランディスが嫌味のない誠実なソロを聴かせます。彼は当時三人いた名コンサート・マスターの一人であり、ミシェル・シュヴァルベ、レオン・シュピューラーとともに黄金時代のベルリン・フィルの音楽を支え続けました。当然ながら腕前の確かな人で、個人的には、明るい美音を振りまくシュヴァルベよりも端麗なブランディスの演奏を好んでいます。
なお、当録音では初演時の楽器編成に準じてかティンパニが入っていません(初演ではチェロも居なかったという)。この点では、ティンパニが加わったミュンヒンガー指揮ウィーン・フィル盤(1960年・デッカ録音)の方が締めどころが決まっていて頼もしく感じられます。