
以下は、2016年9月の記事(同じ東芝GRシリーズのLPの紹介)。
10年の時を隔てても感想は変わらないので、少々長いですがここに引用しておきます。↓
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〇『ランドフスカ/クープラン名演集』
[A面]
1.(a)坊主と信女―(b)花ざかりの果樹園
2.(a)刈入れする人々―(b)恋やつれ―
(c)さえずり―(d)おしゃべり―(e)ぶよ
3.昔の吟遊詩人大一座の足あと
1)手廻し琴とならず者
2)手品使い、軽業師、熊と狼とを連れた道化者
4.愛妾
[B面]
1.フランス人気質さまざま―ドミノ仮面に因む
1)処女―白い仮面に因む
2)貞淑―ばら色の仮面に因む
3)熱情―桃色の仮面に因む
4)希望―緑の仮面に因む
5)誠実―緑の仮面に因む
6)忍耐―紫鼠色の仮面に因む
7)けだるさ―紫の仮面に因む
8)媚態―さまざまな色の仮面に因む
9)年老いた粋な男女―緋と枯葉色の仮面に因む
10)密通されたお人好し―黄色の仮面に因む
11)無言の嫉妬―灰鼠色の仮面に因む
12)熱狂と絶望―黒の仮面に因む
2.(a)ねんね―揺りかごの中の乳のみ子
(b)居酒屋のミュゼット
3.モニック尼
4.牧歌
5.小太鼓(タンブラン)
ワンダ・ランドフスカ(クラヴサン)
録音:1934年
発売:東芝EMI GR-2214
これは今夏に初めて耳にしたSP期の音源ですが、大変な名曲名演のレコードで、「クラヴサンの聖女」ランドフスカへの敬慕の念を一層深くした思いです。LPへの復刻技術が非常に優れていて、解説書に熱い一文を寄せている盤鬼・西条卓夫氏も、音質の鮮やかさを入神の至芸ともども高く評価しています。
このときランドフスカが弾いていたプレイエルの楽器は、1940年にナチスの迫害から逃れるべくパリを脱出した際、やむなく自宅に残して来たものでした。41年に渡米してコネチカット州に居を構え、やがて終戦を迎えた頃に、或るポーランド出身の連合国の軍人がナチスからこの楽器を接収し、無事彼女の元に送り届けたと伝えられています。暗黒の時代が終わり、遠く大西洋の彼方でふたたび大切な愛器にまみえた時、ランドフスカの感激は如何ばかりだったでしょう。
しかし、同一楽器にしては、ヨーロッパ時代と渡米後で耳に残る印象は随分違っている。弦の種類とか調整の仕方、その他何かしらが大きく変わったように聴こえるのですが、定かな理由は分かりません。純粋に音色面に限って言うなら、木質の柔和な感触を織りこんだパリ時代のレコードに私は強く惹かれます。
クープランの作品は、一曲ごとに文学的、絵画的なテーマが子細に盛り込まれており、バロック時代としてはかなり多彩な、表題音楽的な意味内容を持つものです。スカルラッティの鍵盤曲のように純器楽的に鑑賞するのも悪くはないですが、表題を意識することで、こちらの視覚や観念が刺激され、感性ゆたかな音楽の描写力を深く味わうことができます。ランドフスカは直線的な意思を基盤に、あらゆる感情を描く曲線の動き、目の覚めるトリルなどを駆使しながら、いにしえの風雅な情感をみずからの主観のうちに生き生きと蘇らせます。余韻にただよう洗練された温かな馨りは、クラヴサン演奏として比類の無いものでしょう。
「演奏は、55才という全盛期のものだけに、文字通り精妙自在で、曲趣と一体化し、爛熟し切った太陽王時代の世相をしのばすロココ風の艶冶優雅な頽廃美が、絶え入らんばかりの匂やかさで胸を打つ。」
(西条卓夫「ランドフスカ讃」。LP解説書より)
↑本当はこのようなボキャブラリーのある人にこそ、神髄の理解できる演奏なのかも知れません。
静かな秋の日、夜がふけるまで何度でも聴いていたくなる曲集です。
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(2016年9月)

