顔を上げて横尾大橋を |  青行燈

 青行燈

  本業絵描き。モデルと役者をしております。
  数学の家庭教師とハウスキーパーのお仕事は指名のあった日に。
  23歳大学生の息子と二人暮し。
  必要なものは自分で作ってしまう方。
  日本酒、食器、手拭い、妖怪、恐竜、昆虫、お花好き。
  

昨日の続きです。

 

穂高の穂先へ朝日の朱が刷いたように塗られて、水墨画が染まっていくように美しい瞬間。

 

つい先日、この河童橋の付近まで熊が降りて参りましたとのことでしたので、ここから熊鈴ONです。

 

身長が2m近く御座います末弟の後ろ姿。

大きくてどこででも目立ちます。

 

さて私は元気な内に出来るだけ歩を進めておきたいところですので、ペース速めで参ります。

あっと言う間に明神池です。

 

少し休憩をし、また黙々と鈴を鳴らして歩きます。

今年、涸沢ヒュッテの公式Twitterを確認致しましたら、『雨が長く降らず、水不足にて水を提供出来ません。個々必要な水を持ち上がって下さい』とのこと。

我々の予定では二日目に奥穂高まで登る予定でしたので、水は最低でも3L必要です。

弟は4Lを持ち上がると申しました。

 

が、私は「嵐を呼ぶ男末弟でありますので、水は必要ないでしょう。雨は降ります。しかも涸沢の水不足が完全に解消される程度にはね」と答えまして、水は持ち上がらない気持ちで居りました。

無論、リュックには空の3L用ウォーターバッグを2つ仕込んでおります。

 

そんな訳で、今回は体力のある末弟も荷として結構厳しい重量となります予定で、「アルコール持ってきた?」と訊きますので「真坂。水を持ち上がることがないとしても15kgですよ。私に余裕は御座いません」「俺も無理だわ~。プラス4はきつい」「ですね。こんなときにアルコールなど、持って来るようなのは阿呆ですよ」「まさにまさに」といった会話をしながら歩きました。

 

徳沢を経て、横尾です。

この時、既に私は虫の息。

横尾が最終決断地です。

横尾にはテント場があり、もしこの日に先へ進めないと判断しましたら、ここで一泊出来るのです。

更に、水を持ち上がるにはここが最終水場。

ここから本番の登山は始まるにも関わらず、ここで3~4kg増やさねばならないのです。

 

末弟には一言も申しませんでしたが、このとき私は相当心中悩んだのですよねえ。

正直、水を背負わずともこの先の岩場でリュックを上げる自信が御座いません。

が、ここまで来て、目の前に穂高。

断念するのは大変に悔しい。

水を4L汲んでリュックを背負いましたら、心が折れそうになりました。

心が折れた者は、絶対に登れない山です。

と、弟がひょいと私の2Lを自分のリュックへ仕舞って下さいました。

 

私は顔を上げて、横尾大橋を渡りました。

先を行くのは6kg増えましたリュック、20kgを背負う末弟です。

弟は水を背負う為にシュラフを軽量に新調しましたが、その分を超えて背負って下さいました。

 

 

続きます。