他の人よりタクシーを利用する方だと思っている。
とある日に、順番待ちで乗った個人タクシーでのこと。
ふと、車内に音楽が流れていることに気づいた。
しばらくの間、やわらかなシートに身を委ねたまま、目をつぶって聞いていた。
少し経ち、目を開けたら、
白髪交じりの運転手さんに「いいでしょう?ジャズです」と話しかけられた。
私が「心が落ち着きますね」と答えると、
「余裕をもって働かなければね。今日も適当に働いて帰りますよ」
と彼は笑いながら言う。
さらに私が「余裕ってどういうことですか?」と尋ねると
「そうねぇ、身の丈を知るということかな」と答えた。
その言葉にピンときた。
"足ることを知って及ばぬことを思うな”
これはまさに私がいつも肝に銘じていることだ。
とはいうものの、あれもこれもと欲が絶えることがない。
これもいつも感じていることだ。
はたしていつになったら余裕をもって働けるようになるのだろうか。
これもまたいつも思っている。
たかだか20分ほどの乗車であったが、ジャズの音楽の中で
深く思案する、とても濃く心地よい時間を過ごした。
自分を見つめ直すきっかけをくれた、運転手さんとの忘れられない会話である。