最近、自動車産業ではLCA(ライフサイクルアセスメント)というキーワードが注目されています。

LCAとは何か、そして例によってLCAがインドに及ぼす影響をやや乱暴に!?考察してみたいと思います。

 

参考「真剣にヤバイ日本経済の行方」

 

 

 

 

・LCAとは、LCAが日本に与える影響

・インドにおけるLCAの影響

・インドはこうすればいい!(独断と偏見)

 

 

<LCAとは、LCA導入が及ぼす影響>

LCA とはライフ・サイクル・アセスメントの略で、自動車の環境負荷を測定するにあたり、従来の走行中の燃費やCO2排出量だけでなく、生産段階で発生するCO2も計算するというものだ。

現状では、純ガソリン車(ディーゼル車)>HV(ハイブリット)車>EV(電気自動車)の順に環境に良いとされているが、LCAの概念が導入されると、製造時のCO2排出量も組み込んで計算する。ここで、国の電源構成が重要となってくる。

 

ガソリン車であれHV車であれ、自動車を製造するには多くの電気を使う。その電力が、CO2排出量の多い火力(特に石炭火力)発電が多い国で生産した場合、仮にどんなに燃費のいい車でも、生産時のCO2排出量が高くなり、LCAの評価では低評価となる。

とくに、EVになると基幹部品であるバッテリーの製造には多大な電力を使用するため、走行中のCO2排出はゼロでも、火力発電比率が高い国で生産すると、LCA基準では「環境に悪いクルマ」とされてしまうのである。

 

EUはこれを見越して、VWやメルセデスベンツが主導でCO2排出の低い電源(原子力、水力)が大半のスウェーデンにノースボルトというバッテリー製造会社を設立し、最も電力使用量の多いバッテリーを低CO2電力で生産して、LCA基準での製造時のCO2を下げようとしている。

 

一方、日本は火力発電の割合が7割を超えており、LCA基準ではどんなに低燃費あるいはゼロエミッションのEVを生産しても、製造時CO2排出量が大きくなりLCA基準ではEUの製品と比べ大きく劣る評価となってしまう。最悪の場合日本で自動車を生産できなくなる。

 

トヨタ自動車の豊田会長も3月に入ってから、LCAを見越して電源構成の見直しを提言しており、現状のままだと最大100万人の雇用が日本から失われるとしている。

 

LCAに対応して日本が取れる選択肢は

・大急ぎで原子力発電所を増設し、電源構成を低CO2排出にする。

・日本での自動車生産を諦め、日本の工場を原発比率の高いフランスなど電源構成のいい国へ移行させ、国内の産業停滞、大量失業を受け入れる。

 このどちらかしかないと言われている。

 

記事ではHV車に対抗する技術がEV以外にない欧州が仕掛けた日本を貶めるための施策のように書かれているが、実際そんな陰謀があるかどうかはともかく、現状を見ていると、豊田社長の言うように危機的状況であることは理解できる。もはや、EVを広めればいい。という単純なレベルの議論ではない。

 

<インドの置けるLCVの影響>

日本は火力発電の割合が高く、製造時CO2の排出が高いため、LCAで計算すると日本での自動車生産が難しくなるという。

 

ではインドはどうか? 結論からいうと日本とまったく同じ、いやそれ以上に深刻である。インドは産油国ではないが、自国の石炭を使った火力発電が主流で75%程度を石炭火力発電で供給している。

 

さらに、経済発展により現状でも発電能力が追い付いてなくて頻繁に停電している状態で、急増する電力をどうやって安定供給するかが喫緊の課題である。さらに、EVの普及となれば、いったいどうなってしまうのかと思ってしまう。

 

インドも再生可能エネルギーとして太陽光や風力使われているが、そもそもこうした自然エネルギーは天候に左右されるうえ効率が悪いことで知られている。原発も稼働しているがシェアは10%程度で、今から増やしたとしても電力需要の伸びも大きいため、一気に電力構成を塗り替えるのは難しそうだ。

 

その結果、現状の電源構成のままでは、インド製の自動車を欧州や中国に輸出しようとした場合、高額な炭素税ないしは罰金が科せられる可能性が高い。メイクインディア(インドで作ろう!)とインドへの製造業誘致を進めてきたモディ政権には打撃となりそうだ。

 

<インドはこうすればいい(独断と偏見)>

欧州が進めるLCA基準によって、HVを含むガソリン・ディーゼル車の排除され、EVについても生産国の電源構成により一部の原発大国か北欧のように水力に恵まれた国以外での生産が難しくなる。

しかし、裏を返せばこの基準に従えば、原発大国であるフランス、中国(目下急ピッチで増設中)、アメリカの一部、および水力中心のノルウェー、スウェーデンくらいでしか自動車は作れなくなるともいえる。

 

これがレポートにあるような欧州が自分たちに都合のいいように策定したルールなのだろうか?

 

インドはどうするべきか?

私は

「欧州、中国を無視して独自路線を進めてはどうか?」

と思う。

 

現状、インドからの完成車輸出先は、上位はメキシコ、アメリカ、南アフリカ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、商用車だとバングラデシュ、インドネシア、ネパール、2輪ではナイジェリア、カンボジア、バングラデシュ

南米、北米、アジア、アフリカが中心で、欧州への輸出はほとんどない。

さらに

インド1国でEUの2.5倍の人口を有する巨大マーケットである。

今後注目されるアフリカ大陸もEUの2倍の人口を有する。

 

つまり、欧州のトレンドに無理に合わせる必要はないのではないか?

 

 

アフリカ諸国を旅行した人は気づいたと思うが、多くの国で欧州の中古車が大量に走っている。余談だが旧車ファンが好きな往年の名車が普通にタクシーに使われたりして、趣味的にも楽しめる。同様に南アジアの国々では、日本製の中古車が多く走る。

 

エジプトで見かけたVWビートル

 

今後、欧州でEVが広まり内燃機関車(ガソリン・ディーゼル車)が走行禁止になれば、こうした国々に中古車が流れていくであろう。

 

こうした途上国において「EV以外全て禁止」という欧州基準を厳格に適用することは、すなわち充電設備のある都市部のお金持ち以外は自動車が持てなくなることを意味する。

(しかも途上国ほど電力供給が不安定で、EV普及は今以上に生活環境を悪化させる恐れもある)

つまり、今後の有望マーケットであるアフリカ、南アジアの新興国では、今後も内燃機関車が必要になると思われる。

 

さらに言えば、すでにある内燃機関用の給油インフラ、メンテ体制を活かしながら、よりよい内燃機関(環境性能、安全性の高い自動車)を安価に提供していくことではないだろうか?

 

つまり、インドの自動車産業に求められていることは、安価で高品質な内燃機関車を大量に供給し、新興国の成長を後押しすることではないかと思う。

 

現在、インド自動車業界シェアトップのマルチスズキは、同車の人気小型車バレーノをトヨタに供給し、トヨタの販売網でスターレットという名前でアフリカ各国へ輸出する計画がある。

いすゞは同社のSUVであるD-MAXシリーズを中東への輸出しようとしている。

これこそ、今後のインドメーカーに求められる姿ではないだろうか?

 

さらに言えば、日本もアメリカと一緒にインドと連携し、EUの自分達に都合のいい規制を無視して、現実的なHV、マイルドハイブリッド技術を提供するなどして、途上国への環境と成長の両立を後押しして欲しいと思う。