インドのEV事情について考えてみたいと思います。

 

昨年末から欧州を中心に急速にガソリン・ディーゼル禁止、カーボンニュートラルといったニュースが飛び交い、日本でも菅総理が所信表明演説の中で、2050年カーボンニュートラルを目指すと表明された。

「世界はガソリン禁止、完全EVが常識」という印象の報道見かける。しかし、人口世界第2位(EUの2.5倍)、自動車販売台数世界5位(2019年、1位中国、2位米国、3位日本、4位ドイツ)

のインドでは本当に「完全EVが常識」なのだろうか?

 

前編

主要国(欧州,米国、中国、日本)におけるEV化の動き

インドのEV政策と現状

 

後編

インドにおけるEV化展望

そもそもなぜEVなのか?

 

<主要国(欧州、米国、中国、日本)におけるEV化の動き>

2025年:ノルウェーでガソリン・ディーゼル、HV車販売禁止

2030年:イギリス、ドイツ、オランダ、スウェーデン、アイルランド等でガソリン・ディーゼル、HV車販売禁止

2035年:カナダ・ケベック州、米カリフォルニア州でガソリン・ディーゼル、HV車も販売禁止、中国はHV車以外のガソリン・ディーゼル販売禁止

2040年:フランス、スペインでガソリン・ディーゼル、HV車も販売禁止

このほかにも、都市・州レベルで目標を早めてガソリン・ディーゼル販売禁止に加え、走行禁止としてる場合もある。

例 パリ市は2025年からディーゼル車通行禁止、ロンドン市は2030年以降市内のガソリン・ディーゼル車走行禁止

 

日本ではトヨタ・プリウスをはじめとしたHV車が多く、電動化と言っても基本はガソリン車がベースで、電動アシストがつくことで燃費が良くなる(=CO2排出が減る)というものが多い。一方、欧州ではHV車を含め、ガソリン・軽油を燃料に使う乗り物は一切禁止にしてしまうという方針である。

 これを受けて、メルセデス・ベンツやGMといった主要メーカーは、HV車も含む一切の内燃同車を2030年代半ばまでに廃止し、EVのみの完全電動化にすると表明している。

 

長い歴史のある内燃機関をこんなに簡単に捨て去っていいのかという気もするが、それほどまでに欧州の完全電動化への意欲は強い。

 

参照

 

 

 

日本では2019年の菅総理による所信表明演説で、2050年までのカーボンニュートラルという目標が示された。具体的なガソリン・ディーゼル販売禁止時期こそ明示してないが、2050年にすべてのガソリン・ディーゼル車を公道から追放するには、遅くとも2035年頃までに販売禁止にする必要があると言われている。

だが、この動きに対してトヨタ自動車の豊田社長が異議を唱え、電動化=EVではないとして、HV車による電動化への理解を求めた。

一方で東京都の小池知事は独自に2030年以降東京都ではガソリン・ディーゼル車販売禁止を表明しているなど、議論の余地が残っている状態である。

 

<インドのEV政策>

EU加盟国合計の2.5倍の人口を誇り、新車販売台数世界第5位のインドのEV政策はどうなっているのだろうか?

 

インドでも世界の脱ガソリン・デイーゼルの流れを受け、政府は2017年に「2030年に道路を走る車を全てEVにする」と表明した。

EVどころかHVすらほとんど走っていない、生産もしていない状況で唐突な発表だけにインドで事業を行っている自動車メーカーを困惑させた。というより、誰もこんなの無理に決まっていると思っていた。

 

実際その通りで翌2018年には交通大臣が「必ずしも100%EVにこだわらない」など修正の発言をするなど迷走しており、現時点では、2030年までに販売台数の30~40%をEV化にするのが目標としている。

 

実際、インドでのEV比率はどうなのだろうか? 2019年度のデータを見ると以下のようになる。

2019年度 インドEVシェア    
  総販売台数 EV台数 EV比率
乗用車 2773575 3400 0.1%
商用車 717688 600 0.1%
オート3輪 726569 90000 12.4%
2輪車 17417616 152000 0.9%

 

乗用車、商用車のEV比率は0.1%、同年、ノルウェーでは新車販売の42%がEVであった。(日本は1%程度)また、HV車のラインナップもない、つまりほぼ100%従来からのガソリン・ディーゼル車ということになる。

 

セダン、ワゴンなどいわゆる乗用車でのEVは皆無と言っていい。トラック・バスも同様だ。しかし、オート3輪ではシェアが12.4%、2輪車も1%弱とシェアは低いが、販売台数は15万台以上を記録した。

 

欧州各国ではEV化促進のために1台につき100万円前後の購入補助金と数年後のガソリン・ディーゼル車生産禁止、市内乗り入れ禁止という強力な飴と鞭の政策でEV化を進めているが、インドでは消費税にあたるGST優遇(一般車28%、EV5%)のみであり、とてもガソリン車との価格差を埋められるものではない。また充電インフラも皆無に近い。

インドではそもそも自家用車を購入できる中間層がまだまだ育っておらず、とにかくコストを削った安いモデルがよく売れている。実際、パワーウィンドウや集中ドアロックなど日本なら数十年前から当たり前にあった装備が省略されていたり、新車価格・メンテ費用の安いマニュアル車の比率が高いなど、EV化、自動化より遥か手前の段階、いかに安くして庶民に届けるかが自動車メーカーにおけるインド市場での戦略の中心となっている。

 

一方、インドを旅行された方は、膨大な数の3輪タクシーであるオートリクシャー(オートと呼ばれている)が走っているのを見たことがあると思うが、このオートについてはEV化が急速に進んでいる。既存メーカーのみならず、日本人が起業したテラモーターズなど新興企業も参入している。小型軽量のオートリクシャーはEVとも相性がよく、限られた地域だけを走るのであれば、充電インフラの不足も気にならない。

 

グルガオンのEVオートリクシャー

 

 

また、自家用車までは手が出ないけど、バイクの普及率は高く、多くの成人男女が自分用のバイクを持っているインドでは、静かでメンテの楽なEVスクーターが徐々に増えている。

 

このように、インドのEV化は乗用車・商用車においては欧州や北米に大きく後れを取っているが、2輪、3輪車のマーケットで徐々に進みつつあり、政府の進める2030年EV化30%も実現可能な勢いである。

 

次回はそんなインドのEV化、さらにはエネルギー事情を交えて考察してみたい。