故人を見送るとき、逆さまな事を行うという風習があります。
「日常を反転し、死者と生者を正しく区切るため」とか「不幸は忌避したいので非日常行動をわざとする」などいろいろな庶民的な感覚に基づく説があるのですが、仏教的には「執着をひっくり返して手放すための作法」というのがしっくりきます。
我々が現世でこだわってきたことはあの世では何の意味もなく、逆にそのこだわりが故人を縛り、延々と彷徨うことにもなりかねないと心配されました。
そこで、故人の許せずにいる様々なこだわりをほどくため、様々ないつもと反対の行為(逆さ事)をして、常識とか概念(意味づけ)などに縛られてきた故人の執着をほどくお手伝いをするのです。
「しなければいけない」「すべき」といった固定概念で悩まされた人にとって、「しなくてもいい」という許し(緩め)によってこびりついた執着が剥がれていくというわけです。
行為とすれば滑稽なようですが、つまりは「常識の逆をやる」ことによって執着から解放してあげたいという思いが込められています。

● 逆さ布団・・・故人を布団に安置する際、布団を上下逆にかけること。
● 左前・・・着物の衽(おくみ)を普段着ているのと逆を前にして着せること。相手から見て左が前になっている状態。
(※昔は相手から見て左前なので、注意が必要)
● 逆さ着物・・・故人が好きだった着物を死に装束の上に上下逆にしてかぶせること。
● 逆さ水・・・通常はお湯に水を足していくが、その逆で水をベースにお湯を足して温度を調節していくこと。
● 逆手・・・しゃもじを逆手に持って、外向きにご飯をすくって枕飯を盛ること。
● 逆さ柄・・・川上から流れてくる水をすくうのが通常ですが、川下に流れていく水を柄杓(ひしゃく)の柄ですくうこと。
● 逆さ屏風・・・屏風の絵柄が天地逆になるようにして、安置した故人の枕元に飾ること。
● 縦結び・・・通常は蝶結びの結び目が横になるように結びますが、縦になるように結ぶこと。
これらを普段やって、「それは死んだときにするもんだ」と怒られたりしたことがありませんか。
自宅でお葬式をしていた時には、「生の作法」と「死の作法」が分けられていたのです。
とはいえ逆さ事で「こうするものだ」というしきたりに縛られてしまうのも本末転倒です。
「死と生をしっかりと区切る」ための知恵であるとともに、死者への作法を通じて、生きている私たちが「当たり前と思っていることを一度手放してみてはどうか」と問いかける智慧にしていきたいものです。
逆さ事を普段やると悪いことが起きるということはありませんが、和の礼儀作法(死の作法)として覚えておくとよいでしょう。
最近では逆さ事をご存知ない方も増えてらっしゃることと思います。
皆さんはご存知ですか?
合掌