そうだ、鬼ヶ島へ行こう。
キャッチフレーズをJR風にしたとこで鬼ヶ島の社員募集の貼り紙には、給料の額面はおろか労働時間すらも書いておらず、詳しくは面接時にという『誰がこんな募集見てくるんだよ』という内容でした。
そんな場所へ飛び込もうとする時点でもう正気の沙汰ではない。
恐る恐る鬼ヶ島へ電話を掛けると、意外にも丁寧な応対ですぐに面接日が決まりました。
ドキドキしなから迎えた面接日の当日。
週3で食べに来ていたお店、通い慣れてたはずだけど、面接となるとやっぱり違う。
初めて入った休憩中のラーメン屋の店内は、いつもの賑わった喧騒が嘘のように静まり返り、重苦しい空気に包まれていた。
スタッフの方に促され、椅子に座り時を待つ。
すると奥の扉から赤鬼が瓶ビール片手に気怠そうに登場し、僕の事をまじまじと見つめながらこう言った。
『あれ?いつも食べに来てくれてるコだね。』
まさか自分が認知されているとは思っておらず、その事が妙に嬉しく、鬼ヶ島の味にどんだけ衝撃を受けたか、そしてどれほどまでに好きか、自分の熱い想いを喋り出そうとした瞬間、
『飲食経験無いみたいだけど大丈夫かな。ウチ厳しいよ?』
いきなりそんな言葉を投げかけられ、『あー、やっぱりそうなんですか?厳しいですよね、経験もないんで止めときます!』なんて言わないよ絶対!
槇原敬之に似てると何度か言われた事はあるが、それとこれとは話が別だ。
『大丈夫です、やらせてください』
僕はそう言い、赤鬼の目を真っ直ぐみつめる。
内心はキツかったらすぐに辞めちゃえばいいかな、なんて甘えた気持ちも残っていた。
『じゃあ、これ読んでサイン出来るんだったら採用するよ』
そう言われ、1枚の紙を受け取る。
1番上に大きく書かれた誓約書の文字。
10年以上も前の事で、全てハッキリと覚えているわけではないが思い出せる範囲で書きます。
⚪︎店主の指示には逆らわず、返事ははいとしか言ってはいけない。
⚪︎どんなに理不尽な事があっても、店主の言うことは絶対である。
⚪︎残業手当はつかないものとする。
詳しくは忘れてしまいましたが、その他にも目を疑うような内容が10項目くらいありました。
でも最後の項目は、いまだに忘れたくても忘れられない衝撃的なもので、
⚪︎3年以内に辞めた場合は、罰金として店主に300万円を支払う事。
まさに奴隷誓約書である。
ボールペンを渡され、『サインする?』と問われ、僕は固まって動けなくなってしまいました。
キツかったらすぐに辞めればいい、そんな考えすらも読まれていた。
店主こと赤鬼は、半笑いで『ラーメン屋は甘くないから家帰って良く考えな』そう言い扉の奥へと消えていき、僕も店を後にした。
家に帰り、もう一度誓約書に目を通す。
やはり見間違えていない。
考え時間はいくらでもあるはずだけど、すぐにボールペンでサインをして印鑑を押した。
そう、僕の人生は奴隷になる選択肢しかなかったんです。
後日、鬼ヶ島へ誓約書を持っていくと赤鬼は少し驚きながらも、僕に制服を支給してくれた。
すぐに辞めると思っていたのか、TシャツのサイズはXL、長靴のサイズは29cm。
当時の僕はTシャツはMサイズ、足のサイズは26.5cmだったので明らかにおかしい。
ただ最初の目的、鬼ヶ島へ乗り込むことは成功した。ラーメン屋になる為の一歩目は歩くたびにパカパカ音を立てる29cmの白い長靴でした。
第三話 完
さて本題に入りますが、8月はラーメンラリーをやっており1カ月のロングラン限定として、海老と浅利の冷やしそばをやっております。
初日から沢山のお客様に召し上がって頂き、嬉しく思います。
スタンプを集めている方も、そうではない方も皆様に食べて頂きたい一杯です。
8月は週替わり限定がないので、いつもよりプレッシャーが無く身体が楽です😇
なんでいつもあんな無理してるんだろうと不思議な気持ちになりますが、気にしないようにしておきます。
明日の朝はゆっくりなスタートになると予想されますが、せっかくなんで10:30からお店を開けてお待ちしております。