RK超短編サスペンス小説「猫角家の人々」 その1~5 | 春曲丼のブログ

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ハルマゲドンを演出し、第3次世界大戦を起こして人口を大幅に削減し、生き残った人類を奴隷にする計画を阻止します。

現在、RKブログで連載中の「猫角家の人々」を5話まとめて掲載します。

儲けにならないことで知られる介護事業もやり方次第で、濡れ手に粟…。

話題の超短編小説、もちろん、フィクションです。

◆その1
猫角家の一族の生活を一変させたのは、姉妹の母親である猫角えつかの死であった。

「株式会社猫角えつか」を細々と経営していた一族は、母親の死で、びっくりするほど巨額の資産を一挙に手に入れたのだ。会社で掛けていた経営者保険と団体保険から2億を超える保険金が支払われた。残された姉妹は、見たこともない大金を掴んで、思わぬ幸運に小躍りした。

株式会社猫角えつかの経営は決して楽ではなかった。設備投資ができない弱小介護会社に、客は寄り付かなかったのだ。だが、会社の経理状況は、保険金のおかげで一転して良好となった。二人は、贅沢三昧を始める。

母親に代わる経営者には、長姉の克子が就任する。だが、知恵袋は、妹の蜜子だ。京都の当事者大学の法学部を出た蜜子は、地元の不幸禍大学の大学院で修士号を取得した。そののちは紆余曲折あったが、母親の残した弱小会社を拠点に、詐欺三昧の人生を開始したのだ。

考えうるすべてのチャンスを利用して詐欺を働く。働かないで、銭を手に入れる算段だ。手始めは、自動車事故詐欺だ。気心の通じた不良自動車修理工場を使って、起きてもいない自動車事故をでっち上げる。壊れていない車が大破したことにして、車両保険を詐取する。不良修理工場のネットワークが出来上がっている。必定、事故は、特定の修理工場の近くで起きたことにしなければならない。結果、名古屋周辺でばかり事故が起きる。

猫角の会社は乗用車4台を保有している。この4台を交互に事故に遭わせる。同じ車では、続けて何度も偽装事故を起こせないからだ。結果、年に4回も交通事故を起こしたことにするのだ。

また、保険会社には、頸椎ねん挫で半年間、働けなかったと通告し、休業補償を手に入れる。これを、年4回、別々の車でしくみ、結果、一年順、休業補償を受給するのだ。

◆その2
この詐欺行為には、医師の協力が必要だ。だが、裏社会御用達の医者は、たくさんいる。謝礼を出せば、いくらでも診断書を書いてくれる。ようするに詐欺に協力する「各分野の専門家」が「詐欺集団」を形成しているのだ。保険に詳しい指南役もいる。

さらには、自損事故だけではなく相手方のいる事故も偽装する。第三者に被害を加えてしまったことにして、第三者の医療費、慰謝料、修理代を保険会社から詐取する。第三者は、勿論、身内の犯罪仲間だ。勿論、事故は架空だ。かすりもしていない。名古屋辺りの自動車修理屋が、その類のクズを斡旋してくれる。保険会社から入った金を第三者と山分けする。ちょっともったいないが、仲介者の修理屋にも分け前を渡す。

しかし、偽事故を繰り返していると保険会社から目をつけられる。証拠がないから、詐欺と見破られても実害はないが、保険を継続できなくなる。保険料が異様に高くなる。等級は最低ランクになってしまっている。困った姉妹は、あちこちの手蔓を使って、自動車保険を掛ける算段をする。普通の自動車保険は、どこも引き受けてくれない。ちょっとやりすぎたのだ。そこで、知り合いの真っ当な修理工場に話を持ち掛ける。修理工場のT氏は、猫角姉妹のために親身になって、保険を探す。善意から出た行為である。そして、ミニフリート契約という複数台で加入する契約を見つけてくる。保険会社は渋ったが、信用あるT氏の頼みゆえ、ついには折れて保険を引き受ける。だが、4台で保険金は40万円を超えてしまう。

とにかくいったん保険に入れば、次は偽装事故である。猫角姉妹の錬金術は、また、再開するのであった。


2000年に介護保険制度が施行されて以来、介護事業所は2006年までに4万件以上に達した。その後も介護施設の需要は伸び続けているが、厚労省の社会保障費抑制の方針から、介護報酬減額が実施され、介護事業所の経営を圧迫している。結果、2007年以降は、介護事業所の倒産が相次いだ。生き残るためには、同業者とのサービスの面で競争しなければならないが、人手不足でそれもままならない。立派できれいな施設を持っていなければ、客を惹きつけることもできないが、とても、そんな施設建設費など工面できない。介護事業は甘い世界、簡単に儲かる世界ではなかったのだ。

大学で老人介護を研究した猫角蜜子は、介護事業が簡単には儲からないことを人一倍知っていた。だから、姉と一緒に引き継いだ会社を守るため、人とは違うことをやると決めた。

「徹底的に助成金を貰いまくるしかないわ。」

「どうせ、どこの事業所だって、多かれ少なかれ助成金詐欺やってるんだから。」

かくして、猫角姉妹の介護事業は、助成金詐取事業へと変化していったのである。

姉妹の会社は、ネコネコハウスなる介護施設を九州で展開していた。だが、貧弱で不衛生、設備も揃っていない施設を選ぶ客など、ほとんどいない。実質、経営実体のない幽霊施設なのだ。また、介護の現場で働く人たちも、設備の整っていないネコネコハウスなど眼中にない。いくら募集しても、面接にやってくるのは、自分が介護を受ける側に半分なっている老人ばかりだ。

◆その4
だが、やってくる就職希望者が高齢者なら、それはそれで金を生むことができるのだ。

「特定就職困難者雇用開発助成金」なるものがある。60歳以上の高齢者や母子家庭の母などの特定就職困難者を雇用すれば、一人当たり240万円の助成金をネコネコハウスは役所から受け取ることができるのだ。だが、一旦助成金を受け取れば、老人従業員などいても邪魔になるだけだ。さっさと、首にしたい。重い物を運ぶ仕事を押し付け、汚れ仕事をやらせ、パワハラで追い詰める。毎日、薄汚い罵倒句で苦しめる。大概は一週間もしないうちに、腰と心を痛めて、自ら辞めてくれる。

蜜子は、なかなかやめようとしない65歳の新人従業員が必死に働いている後姿を冷ややかに見つめている。そして、はっと顔を上げる。何か、思いついた様子だ。そうだ、団体保険の手があったじゃないのと。65歳新人従業員を金に換える手段を思いついたのだ。だが、その発想の実行は、少し後になる。冷徹で冷酷な計算が、蜜子の脳裏で開始されているのだ。

次に蜜子が目をつけたのが「介護福祉機器等の購入費用」の助成金だ。上限で300万円まで助成を受けられる。だが、本当に機器類を購入してしまえば、300万円など吹き飛んでしまう。そこで、狡賢い手を使う。福祉機器類は、リースで手に入れる。そして、役所の監査が入るまでの短い間だけ、事業所に置いておく。実際には使わないから電源すら入れないままだが。

役所の立ち入り検査は、役所の内部にいる「仲間」からの連絡で事前に分かる。だから、検査に備えて、一時的に施設をできるだけ飾り立てておく。だが、もともと、コストを掛けていないダミー施設だ。建物も築40年のボロボロ平屋だ。役人が見れば、一目でインチキ施設だと分かってしまう。

◆その5

猫角克子蜜子姉妹は、些か不用意だった。リースで手に入れて役人に見せるだけの目的でネコネコハウスに置いてある機器類が「リース品」であることを、ある部外者に口走ってしまったのだ。部外者は、違和感を感じた。そして、「事件」の解明が進展するにつれて、何故、リース品だったのか理解するに至ったのだ。さらに、部外者が、そのリース品のコピー機を借用した時、克子はまた過ちを犯した。コピーの使い方を聞かれて、使ったことがないと正直に喋ってしまったのだ。つまり、コピー機は、ダミー目的でただただ置いてあるだけだったのだ。

介護事業の脱法的儲け手口といえば、助成金詐取よりもなによりも「介護報酬の不正請求」手口である。2006-2007年に発覚したコムスン事件では、介護報酬の不正請求や違法な指定申請が発覚して、厚生労働省は、同社の事業が継続できないような処分を下した。コムスンは、訪問介護最大手であり、全都道府県の企業に分割譲渡されて、企業体は消滅した。約6万人の利用者が影響を受けて、右往左往した。従業員2万名が仕事を失った。親会社のグッドウイルグループも消滅する運命となった。

最大手のコムスンですら、この体たらくである。中小の状況はさらに悲惨である。2014年に全国に7300ほどあった特養ホームの30%近くが赤字になっている。特に収容人員29人以下の小規模施設の4割は赤字だ。小さいほど、経営は難しいのだ。2000年の介護保険開始から15年間で、1714カ所の事業所が「ズル」を咎められて、介護事業所の指定取消処分を受けている。そうなると、介護報酬を一切請求できなくなる。

(株)猫角えつかの介護事業も、勿論、不正請求まみれ、違法な指定申請まみれである。本来ならば、たくさんある介護施設の一つでもルールを破れば、全事業所の指定が取り消されるのだ。だが、コムスン事件が発覚するまでは、厚労省もかなりいい加減な管理をしていた。だからこそ、コムスン事件が起きたのだが。不正が発覚した事業所は閉鎖してしまう。そして、その事業所の客は、近くに別の事業所を作って吸収する。これで、不正はそれ以上追及されないで済む。厚労省のお目こぼしが不正を助長してきたのだ。猫角姉妹は、この厚労省の怠慢を十二分に利用して儲けた。

だが、いくら儲けても儲けても、ギャンブル好きの蜜子が湯水のように使ってしまうのだ。ちょっと損をすると熱くなった蜜子は、損を取り戻そうとさらに相場を張って、損失を10倍に拡大させてしまったのだ。会社の儲けは、みるみるうちにFX市場に消えていった。儲けが消えるだけならまだいい。いつの間にか億に近い負債を抱え込んでいる。こうなると、介護事業などいくらやっても追いつかない。FXを始めた当初、まぐれでそこそこの金を手にしたのがまずかった。蜜子は、FX賭博の美味しさを知ってしまったのだ。だが、蜜子がFXで莫大な借金を抱え込んでいることを、姉の克子は知らない。もし、克子がそれを知ったら….蜜子は、直情的な姉に詰られるのをひどく恐れる。(続く)