日本経済新聞によると、厚生労働省がおこなった国民健康・栄養調査で「糖尿病が強く疑われる患者」が2016年に推計1000万人に上がったと報告がありました。

 

国民健康・栄養調査で初の1000万人を超える数字となりました。

 

この調査によると、前回調査(2012年)から約50万人の人が糖尿病患者として強く疑われています。

 

糖尿病が悪化することにより、人工透析などの高額な医療費がかかるため、自治体など関係省庁の糖尿病の重症化予防対策が急務となります。

 

しかし、なぜ日本人は糖尿病患者の数が増加傾向にあるのでしょうか。

 

今回は、日本人の1000万人が疑われる糖尿病の原因と治療方法について解説します。

 

糖尿病調査結果

前述した国民健康・栄養調査は、厚生労働省が「健康増進法」という法律に基づき毎年実施している調査です。

 

この調査による項目は幅広く、健康に関係する飲酒や喫煙の他、睡眠や運動、食事、身体的データなどがあります。

 

糖尿病の患者数の推計は、約4年~5年毎に実施調査しているようです。

 

2016年には、約2万4千世帯を対象にして同調査を実施しました。

 

糖尿病の調査は、このうち20歳以上の約1万1千人に対して、過去1ヶ月~2ヶ月の血糖状態を示す「ヘモグロビンA1c」を測定しました。

 

この測定により、糖尿病が強く疑われる患者や、検査結果の値が正常と異常の間にあるために「糖尿病患者である可能性を否定できない」いわゆる糖尿病患者予備軍として当てはめて推計したものです。

 

厚生労働省が「糖尿病の患者推計」を始めたのは1997年で、この時には約690万人という推計が発表されました。

 

その後、糖尿病患者の数は右肩上がりで推計され、日本人の高齢化とともに運動不足や食生活の変化・乱れなどで肥満が増えていることも糖尿病患者数増加の原因とされています。

 

厚生労働省が発表した糖尿病の患者数は、患者全体の約12.1%になります。

 

糖尿病患者は、男性は50代で12.6%ですが、60代から21.8%、70歳以上で23.2%と年齢を重ねるたびに増える傾向があります。

 

糖尿病患者の女性の割合は、50代では6.1%と男性よりも低いのですが、60代に入ると12.0%、70歳以上で16.8%と一気に10%台に増加します。

 

統計では糖尿病患者のうち、治療を受けている人は男性78.7%で、女性は74.1%となります。

 

糖尿病患者は高齢化とともに増加傾向にありますが、患者の中には自覚症状がない人も多くいるといわれています。

 

ちなみに糖尿病予備軍の割合は、2007年の1320万人をピークに少しずつ減少傾向にあります。

 

厚生労働省の調査結果では、2016年は2012年よりも100万人少ない1千万人と推計しています。

 

ただし、2007年から減少傾向にあるとはいえ、2012年と比べると糖尿病予備軍は50万人も増加しています。

 

糖尿病の原因として挙げられるのが「体重増加」であり、1950年から2010年までの体重増加率は25.9%にもなります。

 

諸外国の人の体型と日本人の体型を比べると、日本人はスリムな人が多いといえます。

 

しかし、統計からも分かるとおり、昔と比べると確実に体重は増加傾向にあります。

 

もちろん、肥満などで内臓脂肪量が増えてメタボになり、糖尿病になることはよく知られた事実です。

 

ただし、日本人の糖尿病罹患率は、メタボではない人(つまり痩せている人)が約6割を占めています。

 

糖尿病のメカニズム

身体のエネルギー源はブドウ糖であり、血液中のブドウ糖をエネルギーとして体内に取り込みます。

 

そのためには、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるインスリンが不可欠になります。

 

インスリンは、血中の糖濃度を下げる唯一のホルモンです。しかし、インスリンの働きが悪くなると血糖値が上昇します。

 

そして、血糖値が上昇した状態が長く続く状態のことを「糖尿病」といいます。

 

糖尿病は、インスリンの分泌能力が低下するか、インスリンに対する細胞の感受性が悪化することにより発症します。

 

糖尿病はいくつかのタイプに分けられます。糖尿病の1割弱は「1型糖尿病」で、自己免疫異常やウイルス感染によりβ細胞が破壊されて起こるなど、遺伝的要因が強いタイプのものです。

 

1型糖尿病と違い、糖尿病の代表的なタイプのことを「2型糖尿病」といいます。

 

例えば、「インスリン分泌障害」といってインスリンの分泌量低下が原因の糖尿病や、インスリンに対する反応性の低下が原因による「インスリン抵抗性」の糖尿病などがあります。

 

これらのタイプの糖尿病には、複数の遺伝因子が関与しているといわれています。

 

ただし、インスリン抵抗性には、運動不足や過食、ストレス、肥満などの生活習慣的要因や加齢なども深く関与しているといわれています。

 

糖尿病が怖いのは、重症化するまでほとんど自覚症状がない点です。

 

糖尿病に気付いたときには、多く場合で合併症が進行している状態になっています。

 

体内で高血糖の状態が続くことにより、血管壁が傷ついてさまざまな合併症が出ます。

 

例えば、糖尿病により失明や慢性腎不全になることがあります。

 

他にも、腎症や網膜症、神経障害などが起こり、ひどくなると足が壊疽(えそ)を起こして切断しなければいけないケースもあります。

 

糖尿病による合併症は、糖尿病神経障害や糖尿病網膜症、糖尿病性腎症などがあります。

 

これらの疾患は、糖尿病の初期段階ではわからないことが多いようです。

 

知学院大歯学部歯周病科(名古屋市)の野口俊英教授は、糖尿病は歯周病とも関連があるといいます。

 

糖尿病になると歯周病になったり、歯周病になると糖尿病の症状が悪化したりするそうです。

 

糖尿病と歯周病には、5つの共通事項があるそうです。

 

例えば、どちらの疾患も初期に顕著な自覚症状がなかったり罹患率が高い、生活習慣病、慢性疾患、病気進行のメカニズムが似ていたりするなどの点が挙げられます。

 

歯周病が重症化することにより、歯周病の原因となる細菌と戦おうとする「TNF-α」というたんぱく質が出されます。

 

しかし、「TNF-α」はインスリンの働きを悪くするため、結果として血糖値のコントロールも悪化すると野口教授はいいます。

 

糖尿病を発症したり悪化させたりしないためにも、食事後はしっかりと歯磨きをおこない、口内を清潔に保つことも重要です。

 

また、妊娠中に起こる「妊娠糖尿病」についても注意が必要です。

 

子供のためといって、必要以上にカロリーを摂取することにより、糖尿病には至らない高血糖状態になってしまうことです。

 

このような状態になると、お腹の子供に大きな悪影響を及ぼすことがあるので、カロリーの必要以上の摂取には気をつけましょう。

 

糖尿病の増加原因

前述したとおり、糖尿病になる原因として「体重増加」が挙げられますが、体重だけが原因ではありません。

 

例えば、糖尿病になる原因のひとつに「タバコ」があります。

 

タバコと糖尿病に関するさまざまな調査結果がありますが、1日に吸うタバコの本数が多ければ多いほど、糖尿病になる確率が高いことがわかっています。

 

参考として、糖尿病になる原因についていくつか解説します。

 

タバコによる糖尿病発症リスク

タバコは、1日に吸う本数が多ければ多いほど、糖尿病になりやすいとさまざまな研究機関で発表されています。

 

つまり、禁煙やタバコの本数を減らすだけで、糖尿病になるリスクを低下させることができます。

 

よく、禁煙すると口が寂しくなり、感触が増えるため血糖値が上がると心配になる方がいます。

 

しかし、これは一時的なものであり、総合的に考えるとタバコを吸わないメリットの方が吸うデメリットよりも明らかに大きくなります。

 

非喫煙者の糖尿病発症リスクを1とすると、1日20本以上吸う喫煙者の糖尿病発症リスクは1.61倍になると厚生労働省は警告します。(2017年9月29日更新)

 

1日20本未満では、喫煙者の糖尿病発症リスクは1.44倍です。

 

糖質・炭水化物の過剰摂取による糖尿病発症リスク

日本人の主食は米です。

 

しかし、近年の食の欧米化が進み、パンやパスタ、麺類などの炭水化物も多く摂取する機会が増えました。

 

これらは、全て炭水化物です。炭水化物を多く取り過ぎることにより、血糖値が上昇します。

 

なぜなら、炭水化物は消化されると糖質に変わるためです。

 

急激に血糖値が上昇すると、膵臓に負担がかかります。炭水化物の中でも、前述したパンやパスタ、麺類などは、急激に血糖値が上昇します。白米も同様です。

 

炭水化物の他にも、砂糖や果糖、ブドウ糖などを多く取り過ぎることも糖尿病発症リスクの原因になるといわれています。

 

例えば、ケーキやお菓子類、ジュースなどには、とても多くの糖質が含まれています。

 

糖質は、消化する必要がないため、体内に一気に吸収されるために血糖値が上昇して膵臓に負担がかかります。

 

ジュース類などの依存者も多く、ジュース類を手放せない人のことを「ペットボトル症候群」といいます。

 

ペットボトル症候群は、特に若者に多いようです。

 

肥満やまとめ食いによる糖尿病発症リスク

肥満になると、体内血糖値を下げるために大量のインスリンが必要となります。そのため、膵臓に大きな負担がかかります。

 

肥満だけでなく、まとめ食いをする人も、糖尿病発症リスクが大きいといわれています。

 

食事で一気にまとめ食いをすることにより、血糖値が一気に上がるので、膵臓に大きな負担がかかります。

 

また、食事の順番も関係しています。炭水化物や糖質を最初に取り過ぎると、血糖値が一気に上がります。

 

そのため、食事の最初には野菜を十分に摂取してからたんぱく質である肉や魚を食べ、最後に炭水化物を摂取することが望ましいといわれています。

 

 

運動不足による糖尿病発症リスク

日本人の体質は、糖尿病になりやすい体質といわれています。

 

糖尿病が発症する原因は、膵臓から分泌されるインスリンの量が減ることです。

 

私たち日本人や多くのアジア人は、インスリン分泌量が欧米人の半分程度という統計があります。

 

にもかかわらず、日本人の食生活が欧米化して肉食や糖質を多く摂取する機会が多くなっているために、糖尿病発症リスクが高くなっているようです。

 

このため、日本人はあまり太っていなくても、糖尿病になりやすいといわれています。

 

また、現代人は昔の人と比べると、運動不足傾向だといえます。

 

現代では、自動車やエレベーター、エスカレーターなどの交通・公共機関などの発達でインフラが整備され、あまり身体を動かす機会がありません。

 

身体はとても楽なのですが、こうした現状から現代人の運動不足に拍車がかかり、糖尿病になる原因の一因になっているといえます。

 

また、高齢になるほど身体の筋肉量が減り内臓脂肪が増えるため、インスリンの働きが悪化することも糖尿病の原因となります。

 

インスリンの働きが悪くなると、血糖値が上昇します。

 

加齢により、膵臓からインスリン分泌量が減ることも糖尿病の原因となります。

 

 

糖尿病の予防法

前述したとおり、糖尿病になる原因にはさまざまなものがあります。

 

日本人の糖尿病患者の約95%が2型糖尿病といわれ、運動不足やタバコ、肥満、ストレス、暴飲暴食などが糖尿病の原因といわれています。

 

糖尿病における治療や予防の基本は食事療法といわれています。糖尿病の治療方法や予防法について解説します。

 

食事療法

糖尿病を治療する基本は、なんといっても食事療法です。

 

なぜなら、2型糖尿病の原因は、炭水化物や糖質などの過剰摂取によりインスリンが必要となり、膵臓に負担がかかるためです。

 

前述したとおり、私たち日本人やアジア人のインスリン分泌量は、欧米人の半分程度といわれています。

 

それにもかかわらず、食事は欧米化しているために、体内での糖分処理が追いつかず血糖値が上がり膵臓に負担がかかるのです。

 

この状態が長く続けば、当然膵臓からのインスリンを分泌する力が衰えていきます。

 

そのため、血糖値が高く上がり過ぎるような、必要以上のカロリー摂取を控える必要があります。

 

食事は、1日に必要なバランスが取れた栄養摂取を心掛けることが大切です。

 

前述したとおり、食事の最初には野菜を十分に摂取して、その後にたんぱく質である肉や魚を食べ、最後に炭水化物を摂取することが血糖値を上げない理想的な方法だといわれています。

 

厚生労働省が発表する1日野菜必要摂取量は、350g以上です。

 

このうち、緑黄色野菜を120g以上摂取することを勧めています。

 

また、体内における「アディポネクチン」という物質を増やすことは、2方糖尿病の予防に役立つとして注目されています。

 

アディポネクチンは、食物繊維を多く含む海藻類や青魚、大豆、マグネシウムを多く含んだ食品(海藻類や豆類)を摂取するといいようです。

 

もずくやめかぶ、わかめなどの海藻類に含まれるネバネバ成分のことを「フコイダン」といいます。

 

フコイダンには、コレステロールを体外に排泄して、血糖値を下げる効果があるといわれています。

 

また、アディポネクチンを増やす方法は、これらの食品を摂取するとともに、オスモチンという物質を含む果物や野菜などの食品を摂取したり禁煙したりすることが良いとされています。

 

他にも、チョコレートに含まれるカカオポリフェノールが糖尿病発症リスクを抑えるといわれています。

 

ただし、糖質が多く含む甘いチョコレートではなく、カカオポリフェノールが多く含まれているチョコレートを摂取することが大切です。

 

他に、みかんに含まれる「βクリプトキサンチン」という色素や、コーヒーに含まれる「クロロゲン酸」にも糖尿病発症リスクを抑える働きがあるといわれています。

 

また、「タウリン」を多く含む食品には、膵臓機能を高めてインスリンの分泌量を高める作用があるといわれています。

 

タウリンは、イカやタコ、貝類などに多く含まれています。

 

逆に、血糖値を上げる食材は、炭水化物やお酒、ブドウ糖などです。お酒を飲むと食欲が増すのは、血糖値が下がるからです。

 

食事で血糖値を抑える食べ方

血糖値を抑える食品や食べる順番は前述したとおりですが、血糖値を抑える食べ方も大切です。

 

血糖値を抑える食べ方は早食いをせずに、食品を口に運んだ後に1口30回噛むと良いとされています。

 

早食いをすると、インスリンの分泌が間に合いません。そのため、急激に血糖値が上昇してしまいます。

 

ゆっくりよく噛んでご飯を食べることにより、急激な血糖値の上昇を防ぐことができます。

 

また、食後1時間以内に入浴や運動をおこなうことにより、血糖値の上昇を抑えることが可能になります。

 

これは、入浴や運動で汗をかくことにより、エネルギーとして当分が消費されるからです。

 

運動療法

糖尿病の予防には食事療法は重要ですが、食事療法と同時に運動することも大切です。

 

年とともに運動する機会が減ることが多くなりがちですが、運動をしないと筋肉量が減るため、体重が少なくても脂肪量が多い身体に変化していきます。

 

こうした状態のことを「隠れ肥満」といいます。

 

隠れ肥満になることにより基礎代謝が減るため、運動をせずに昔と同等の食事を摂取していると、余分なカロリーが脂肪として体内に蓄えられることになります。

 

運動することは、中性脂肪を減らしたり筋肉量増が加して基礎代謝が上がったりするため、糖尿病発症リスクを抑えることにつながります。

 

運動といっても激しく運動をおこなわないといけないわけではありません。

 

例えば、たった3分間だけでも身体を動かすことにより、筋肉中の酵素である「AMPキナーゼ」が活性化するため糖尿病予防につながります。

 

以前は、体内の脂肪を燃焼させるには、最低20分以上の有酸素運動が必要とされてきました。

 

しかし、近年の調査結果では、もう少し時間の短い運動量でも中性脂肪値が減ることがわかりました。

 

例えば、自転車こぎ運動を1日の中で3分間10回おこないます。

 

連続でおこなうわけではありません。間を置いて、自転車こぎ運動をおこなうだけです。

 

この運動の次の日に、脂肪を多く含む食品を摂取して中性脂肪値を検査したところ、運動しない場合と比較して中性脂肪値が下がっていたそうです。

 

これは、運動後1日たっても、体内に(主に筋肉)しぼうが貯まりにくくなっていたことになります。

 

つまり、体内では少しの運動量でもAMPキナーゼが活性化されて、糖や脂肪を効率よく燃焼してエネルギーに変えているのです。

 

この効果は、インスリンと同じくらい強力な効果だといわれています。

 

また、週にたった7分間の運動だけでも、体内の血糖値を下げるインスリンの働きを改善する効果があるそうです。

 

まったく運動をおこなわないよりは、

少しだけでも運動をおこなうことにより、血糖値が改善されるのです。

 

血糖値を下げる運動は、大腿筋など大きな筋肉を動かすことが体内のエネルギーを多く消費することにつながります。

 

従って、早歩きや軽いスクワットなどで、大腿筋をたくさん動かすようにすることがポイントです。

 

 

糖尿病を改善する睡眠

睡眠不足になると、身体にはさまざまな悪影響が起こるといわれています。

 

現代人は、勉強や仕事などで睡眠不足に陥りやすい傾向があります。

 

睡眠不足になると、基礎代謝が落ちて肥満になるなど、糖尿病発症リスクが高くなることが考えられます。

 

ある研究発表によると、徹夜をする子供は、糖尿病発症リスクが高まるといいます。

 

この研究発表では、睡眠時間を毎日6時間とったり、いつもより1時間多くとったりすることにより、インスリン抵抗性が9%改善されたという結果がでました。

 

また、糖尿病の治療と同時に不眠治療をおこなうと糖尿病が改善されて、血糖値や動脈硬化などの血管障害も予防できる可能性があるといわれています。

 

このように、日本人の1000万人が疑われる糖尿病ですが、普段の生活習慣を改善することにより多くの糖尿病は防ぐことが可能です。

 

怠惰な生活習慣を改善して、健康で明るい生活を送りましょう。