先日、TBSテレビ系の「ゲンキの時間」という番組で、「脳疲労」のメカニズムについて放送されていました。
番組では、春で陽気な季節なのに、疲れが取れなかったり外出したりするのが億劫になるのは「脳に原因がある」という内容のものでした。
確かに、この季節になると、春の陽気につられて外出したい気持ちになる人が多くいます。
ところが、日頃の仕事や家事などで身体から疲労が抜けない人は、脳から「休みなさい」という指令が出て疲労するために、外出したい気持ちになりません。
ひどい人は、身体が動けなくなる人もいるようです。
なぜ、そのような状態になるのでしょうか。今回は、脳科学の視点からみた自覚しにくい疲労のメカニズムと対処法について解説します。
疲労がわかる時間帯と疲れサイン
昨今では、日本人は「働き者」民族であると世界的に認められていますが、日本人の3人に1人が慢性的に疲労しているというデータがあります。
つまり、私たち日本人の多くが「仕事のし過ぎ」ということになります。
日本疲労学会では、人の疲労について「一般に運動や労力などの身体作業(運動)負荷あるいはデスクワークなどの精神作業負荷を連続して与えたときにみられる、身体的あるいは精神的パフォーマンス(作業効率)の低下現象」と定義しています。
疲れを放っておくと、脳梗塞や心筋梗塞など、命に関わる病気につながるといわれています。
そのため、自分の疲労度を日々チェックしておく必要があります。
疲労すると、身体の中でさまざまな症状が生じます。例えば、思考力が低下したり、注意力が低下したりします。
また、肉体的には頭痛や肩こりがしたり、目がかすんだりしたりすることもあります。
では、どの時間帯で、身体に疲労が最も出ていることがわかるのでしょうか。
それは、昼でも寝る前でもありません。実は、朝の起床時に、自分の疲労度が最もわかる時間帯になります。
寝ている状態のときには、身体は脱力しています。
朝目覚めるときに、脱力状態から覚醒するため、その差により身体の疲労度が一番感じられるのです。
当然、朝に疲労を感じていれば、仕事やスポーツ、家事などのし過ぎということになります。
疲労を感じたときには、仕事などをセーブしたり疲労回復の食材を摂取したりして、身体の回復に努めるようにしましょう。
また、疲労が蓄積されたときに、身体から3つのサインが出るといわれています。
例えば、仕事などをおこなっているときに、その作業を「飽きる」状態が増えてくることがあります。
このときに、体内に細胞を傷つける「活性酸素」が多く増えています。
飽きる状態が起きたと感じたときには、違った作業をおこなうようにしましょう。
すると、脳がリフレッシュして、再度仕事がはかどるようになります。
2つ目のサインは、「あくび」が多く出るようになります。当然、あくびが多く出ると眠くなります。
この状態は、脳が「休みなさい」と身体に指令を出している状態です。
そのため、その状態で仕事しても、仕事効率などのパフォーマンスが低下してしまいます。
このようなときには、少し身体を動かしたり短時間仮眠を取ったりすることで、脳がリフレッシュして仕事に戻ることが可能になります。
3つ目のサインは、仕事をおこなっていて「ミスが増える」ことです。
ミスが増えると、どうしても仕事効率が悪くなるため、改善する必要があります。
例えば、疲れが溜まらない人は、仕事中に「動く」「立ったり座ったりする」「人に話しかける」などの行為を無意識におこなっています。
こうした動きは仕事にメリハリを付けるため、身体の疲れが溜まらない疲労予防動作になることと同時に、気晴らしにもなり仕事の作業効率が上がります。
「疲れサイン」が出る前に、自分に合ったさまざまな対処法をおこない、仕事などのパフォーマンス効率を上げましょう。
疲労のメカニズム
疲労には、「肉体的疲労」「精神的疲労」の2つのタイプがあります。どちらも、身体に及ぼす影響は大きく、疲労の原因になります。
身体が肉体的にも精神的にも疲労すると、自律神経系に大きな影響を及ぼします。
身体が疲労すると、体内では身体をサビつかせる「活性酸素」が多く作られてしまいます。
活性酸素は、自律神経などの細胞を酸化(サビつかせる)させるために、身体が疲労してしまうのです。
また、活性酸素による影響だけでなく、真面目な人などが陥りやすく交感神経が働き続ける「交感神経空回り型」による疲労が溜まる人もいます。
交感神経空回り型の人は、真面目な人や興奮しやすい人、よく緊張する人、責任感や義務感が強い人などに多い疲労のタイプです。
仕事を集中しておこなったり、スポーツなどをやらないと気が済まなかったりする人は、気がつかずに疲労が蓄積されてしまうので要注意です。
他にも、元気がなかったりボーッとしたりする人が陥る交感神経や、副交感神経の両神経系の活動が低下する「自律神経パワーダウン型」による人もいます。
自律神経は、24時間休むことなく働き続けて、内臓組織やあらゆる器官に指令を出し続けます。
例えば、運動をおこなうと疲れを感じますが、身体をフルに動かすと脳への負担が大きくなって疲労を感じるようになります。
フルに身体を使って運動すると、筋肉や心臓が活発に活動し、それに伴い呼吸や心拍数が多くなります。
これらの器官は、自律神経系が深く関与しています。
運動により、身体をフルに動かし続けると、脳への負担が大きくなるために疲労が起こるのです。
また、「いびき」を多くかく人も、疲労が取れない原因の一つに挙げられます。
いびきをかいている状態は、気道が狭くなるために肺に空気を入れる負荷が高くなります。
すると、肺に十分な酸素が行き渡らないため、「低酸素呼吸状態」に陥る可能性が高くなります。
自律神経は、生命維持のために心拍数を早めて血圧を上げ、酸素供給量を維持しようとします。
このため、余計に自律神経の活動を促すために、身体が疲労してしまいます。本来は、睡眠中には自律神経を休める必要があります。
しかし、いびきをかくことにより、自律神経が働かなければいけない状況に陥り、結果として身体に疲労が溜まってしまうのです。
また、いびきは脳の酸素不足も引き起こすために、睡眠中にも脳が覚醒して運動をおこなっている状態になり、疲労が蓄積されて身体が回復しないのです。
活性酸素の影響や、自律神経の影響により疲労が溜まると、やる気が起こらなくなったり思考力が低下したりします。
この状態が慢性化すると、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を引き起こす可能性が高くなり、心筋梗塞や脳卒中が起こりやすくなります。
疲労とマスキングの関係
どうして、集中して仕事やスポーツなどをおこなうと止められなくなるのでしょうか。
実は、脳の前頭葉に疲労をかき消す作用があることがわかっています。
ちなみに、「疲労」と「疲労感」は違うものです。疲労は、乳酸やアンモニアなどの疲労物質が、物理的に体内に蓄積される状態のことです。
これに対し、疲労感は、自分が主観的に感じる感覚のことをさします。例えば、仕事を朝から夕方までおこなうとします。
自分が得意だったり好きだったりする仕事は、あまり疲労感を感じません。
逆に、あまり得意でなかったり嫌な仕事をやらされたりするときには、どっと疲労感を感じることがあります。
しかし、実際にはどちらも体内に疲労が蓄積されているのです。
問題なのは、前述した「疲れサイン」などの疲労が体内に蓄積されているのにもかかわらず、疲労感を感じなくなってしまうことです。
これは、前頭葉の脳内作用によるもので、「エンドルフィン」「カンナビノイド」などの脳内麻薬物質といわれるホルモンが疲労感を隠してしまうために起こる現象です。
この作用のことを「マスキング作用」といいます。仕事が終わった後に、リフレッシュしようとして、スポーツジムなどでトレーニングをおこなう人がいます。
この行為は、一見ストレス発散になるため、疲れが解消されると思いがちになります。
しかし、実際には前述したマスキング作用によるもので、脳内麻薬物質が疲労感をマスキングしているだけです。
したがって、トレーニングをおこなった分だけ、確実に体内に疲労は蓄積されています。
体内に疲労が多く蓄積されてしまうと、脳内で多くの「ステロイドホルモン」が分泌されます。
ステロイドホルモンが多く分泌されると、このホルモンにより血管が老化してしまい、動脈硬化などのリスクが高まるといわれています。
また、ステロイドホルモンには、血糖値を下げるインシュリンの効き目を低下させる作用があり、高血糖や肥満などの症状を引き起こすことがあります。
さらに疲労が続くと、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病やメタボリックシンドロームになる可能性が高まります。
他にも、疲労により免疫機能が低下してガンや心疾患、脳血管疾患などの病気を引き起こすこともあります。
慢性疲労症候群
疲労が蓄積されると、さまざまな病気を引き起こすことになります。
また、慢性疲労とは違い、原因のわからない極度の疲労感が長期間続く病気を引き起こすことがあります。
この病気のことを「慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome、CFS)」といいます。
慢性疲労症候群になると、身体を動かせない状態が6ヶ月以上にわたり続きます。
その結果、仕事や家事などに大きな影響を及ぼすことになります。
慢性疲労症候群は、風邪やインフルエンザ、気管支炎などの病気をきっかけに、風邪のような症状がいつまでも続く状態から発症することが多いようです。
身体を休めていても症状が改善しなかったり、不眠症や摂食障害などの症状があったりする場合は要注意です。
慢性疲労症候群になると、レントゲンや血液検査などの検査をおこなっても、異常が見つからない場合が多くあります。
そのときに、慢性疲労症候群と診断されることがあります。慢性疲労症候群は、原因不明といわれる病気です。
ただし、少しずつ慢性疲労症候群が起こる仕組みが明らかになっています。
体内では、神経系や免疫系、ホルモン系のバランスが常に保たれています。
しかし、ストレスなどの影響を受けたときに、神経系のバランスが崩れて免疫系の働きが低下します。
すると、通常では悪さをしない「体内に潜伏しているウイルス」が活性化されてしまいます。
そのとき、活性化したウイルスを押さえ込むために、過剰に免疫物質が作られるため、脳に影響を及ぼして強い疲労感や筋肉痛などの症状を引き起こすといわれています。
慢性疲労症候群の人の中には、特定遺伝子の異常が認められるという報告もあります。
慢性疲労症候群の症状は、強い疲労感や筋肉痛、不眠や過眠、頭痛、微熱、喉の痛みなどが起こります。
慢性疲労症候群の治療は、対処療法として薬物療法が中心におこなわれます。
たとえば、身体の免疫力を高めるために「捕中益気湯」などの漢方薬を服用したり、活性酸素を除去するために抗酸化作用のある「ビタミンC」を多く服用したりします。
他には、抗ウイルス薬や免疫調整剤、抗うつ剤、精神安定剤などが使用されることもあります。
疲労の対処法
身体に疲労を蓄積させないためには、良質な睡眠をとることが重要です。
そのためには、副交感神経を優位にすることをおこなったり、疲労を取り除く成分を有する食事を摂取したりすることがポイントです。
例えば、副交感神経を優位にするには、お風呂に入ることが有効だといわれています。
入浴することにより、血行が促進されるため、体内の疲労物質(老廃物)を体外に放出する作用がありあす。
ただし、あまり熱いお風呂に入ると、刺激が強くなるため交感神経が優位になります。
そのため、疲労回復による入浴は、38℃~40℃くらいのぬるま湯で入浴することが望ましいといわれています。
専門家の中には、入浴には41℃が適温という人もいます。
疲労を蓄積させない食事は、まず食べ過ぎないことです。
食べ過ぎは、消化管などの内臓活動を活発にさせるために、安眠を妨害するおそれがあります。
また、内臓活動が活発化されるために、内臓をコントロールする自律神経の疲労につながります
腹八分を目安に、食事を摂るように心掛けましょう。
また、2003年に産官学連携プロジェクトで、抗疲労成分を明らかにする実験がおこなわれました。
その実験では、抗疲労に最も効果的な成分が鶏の胸肉に含まれる「イミダゾールジペプチド」という成分が高い効果があることがわかりました。
イミダゾールジペプチドで抗疲労効果を上げるには、1日あたり200mgのイミダゾールジペプチドを2週間以上摂取することにより、効果が上がることがわかりました。
この量は、鶏の胸肉を、1日100gを目安に摂取することです。また、イミダゾールジペプチドは、熱に強く安定しています。
そのため、鶏の胸肉を焼いたり蒸したり、茹でたりして食べることができます。
鶏の胸肉が苦手な人には、カツオやマグロの赤身や尾ひれなどを摂取して、イミダゾールジペプチドを摂取するようにしましょう。
疲労の対処法として、良質な睡眠をとるには、寝るときに強い光を目に浴びないことです。
人は、暗くなると眠くなるという本能が備わっています。
そのため、夕方以降は、なるべく強い光を浴びないようにすることが重要です。
自宅では、照明の強さを絞って寝やすくしたり、間接照明を使用したりして目に強い光を浴びないようにしましょう。
また、スマホのブルーライトは光が強いため、夜寝るときにはスマホを控えるようにしましょう。
仕事で疲労を蓄積させないようにするには、続けての長時間労働をしないことです。
例えば、約40分働いたら5分の休息を取るようにすると、仕事の作業効率が格段にアップします。
こうすることにより、自律神経の酸化を遅らせて、疲労が溜まりにくくなります。
また、「ゆらぎ効果」といって、光や風などを感じるだけでも、副交感神経が優位になります。
仕事で集中していて疲れを感じたときに、ゆらぎ効果を感じることも、仕事効率がアップします。
また、エアコンの温度を2時間おきに、1.5℃程度上下させて温度を変化させることも、疲労が溜まらない効果に期待が持てます。
仕事などで外出するときには、目の保護のためにサングラスを掛けたりしましょう。
太陽光による紫外線は、体内に多くの活性酸素を引き起こします。
そのため、安眠を妨害してしまうので、紫外線を目に受けないようにしましょう。
他には、脳がリラックスする音楽を聴くことも安眠を誘うため、疲労に対する対処法になります。
こうした対処法をおこなうことにより、仕事やプライベートを充実したものにすることが可能になります。