自分自身で書いた本を6年後の今、初めてじっくり読んだ。
5日間で書き上げ校正は千明ともう一人の素人にして貰った事も、
あるだろうし、書いた本人でなければ間違いか分からない部分も
当然あったでしょうから、あらぁ、まぁ、というほど誤字脱字は
いくつもあって、ちょっと恥ずかしい感じもしましたが、読んで
くれた人達が言うようにサラーッと読める本になってました。
6年も経ってるからでしょうか・・・
書いた本人なのに、読みながら笑ったり、泣いたりしました。
思い起こせば毎回が新たな経験の連続でした。
葬儀って家族親族がみな同じ気持ちで故人を弔うものだと思って
いましたが、現実は全く違うのも教えられました。
・故人が残した財産で家族戦争する人達を何回も見ました。
・金は出さず、くちだけ出す親戚を沢山みました。
・裕福ではないけど、温かい家族の絆が健在なのも知りました
・たった一人のお葬式も経験しました
・葬儀費用の心配をいながら生きてた人達もいました
その中のいくつかの葬儀は具体的に書かれていました。
僕自身が経験した事を、僕自身が書いているのですから、各場面、
場面が映像化されて当然なのでしょうが、何年も前のことなのに、
昨日のことのように思い出されます。
設立当初から、現在に至るまで芯は通っているようだし、ぶれる
ことなく10年間走ってきたのは間違いないのと、今の立ち位置
である『家族目線の土俵』は、この当時の葬儀が強く影響してる
のだろうと感じます。 そんな葬儀の実践編です
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『自分達だけで行なう初めての葬儀』
八九、九〇〇円火葬パックの掲示から、依頼が入るまでは長い
時間を必要としませんでした。
それでも机上での計算と仕入れ交渉は完了しており、赤字は避け
られるはずなのです。 結果は病院から自宅までの搬送と、自宅
から火葬場までの搬送に防水シートまで入れると搬送費だけで四
五、〇〇〇円が業者さんへの支払いにもかかわらず、利益は出ま
せんでしたが、赤字には成らなかったのです。
ということは八九、九〇〇円 ― 四五、〇〇〇 = 四四、九〇〇円
なのですから、病院~自宅・自宅~火葬場この二回の搬送が五、
一〇〇円以内で行なえれば、利益はないとしても、五万円火葬の
実現は充分可能だと分ったのです。
但し二回で五、一〇〇円以内なんて、自社所有霊柩車以外は無理
だし、距離によって料金が加算される体系では五万円火葬とは謳
えません。 いずれにしても、自社で霊柩車を所有しない限り絶
対に実現不可能であり、自社所有の霊柩車があれば充分可能なの
だと分っただけでも大きな収穫であり、希望の持てる第一歩だっ
たのです。
次に経験したのは、自宅での家族葬儀一八九、〇〇〇円です。
この金額もちゃんと設定されておらず見切り発車でしたが、何の
前触れもなく、突然知り合いの業者さんを仲介して入ってきた葬
儀だったので、何事も経験と思って依頼を受けた葬儀でした。
今まで火葬の手続きなどした事の無い我々の甘い判断で、一歩
間違えば大変な事になったであろう葬儀でもあり、色々な経験を
一度にした思い出深い葬儀は七月始め、夏というより、まだ梅雨
の晴れ間のことでした。
知り合いの業者さんを仲介して入って来たのは、事務所のある
前橋市から西へ隣接した高崎市の女性だという事だけ聞かされ、
詳しいことは、ある喫茶店のマスターに聞いてくださいという少し
ややこしい話しでした。
とりあえず、そのマスターに電話をして、お迎えの病院を確認し、
搬送専門業者さんに搬送依頼をして指定病院で落ち合う約束をす
ると、ドライアイスを取って喫茶店のマスターに詳細確認をする
為に向かいます。
マスターの話しでは高崎のビルに住んで、管理人をしているが
夫婦ではなく二人とも都内の人間だから、自分が火葬の申請者に
なると言うのです。 ただ、すぐに行けないから印鑑を渡すので
死亡届出書は、同居の男性と相談して記入してくれとの事でした。
当社本拠地の前橋は、故人から見て六親等以内の親族が申請者
なら、市民同様無料で火葬できるのですが、初めての経験なるが
ゆえの甘さが、一歩間違えば大変な事態となる事など、この時点
では全く考えもせず、認印をお借りして、高崎市内の総合病院へ
と向かったのです。
病院に到着すると搬送業者さんの寝台車も来ており、我々待ちの
ようで、軽く挨拶をすると、我々より病院事情に詳しい搬送業者
さんの案内で、霊安室に向かいます。「多分ここですよ」言われ
た扉を開けると布団の掛ったご遺体はあるのですが、ご家族の姿
が見えません。
霊安室に来た看護士さんに聞くと、突然亡くなったので警察の検
死が入り、同居の男性は事情聴取を受けているから もう少し時
間が掛りそうだとの事でした。
一時間ほど待った頃、疲れ果てたような顔をしてキャップを被
った初老の男性が現れたのです。
昨日まで何でも無かった人が心筋梗塞で突然倒れて亡くなったの
ですから、同居人の男性は半分取調べのような感覚にもなる時間
だったに違いありません。
突然の病気での逝去だった為、やっと開放された同居の男性も寝
台車に乗り街の真中だという自宅に向かいます。
到着したのは八階立てのビルで、その七階に住んでいるというの
ですが、エレベーターは狭くとてもストレッチャーは入りません。
そこで搬送シートの左右八ヶ所に付いている取手を持ち、椅子に
座ったような形でご遺体をエレベーターに乗せて七階の部屋まで
運び入れました。
奥の部屋に敷いてあった大きな布団に寝かせ、ドライアイス処置
を行うと打ち合わせです。
葬儀は最高でも一〇人ほどなので、自宅で出来るならそうして欲
しいと、自宅葬を希望されましたが、エレベーターに棺は乗らな
い旨を伝えると、その点なら、広い階段があるので問題はなく、
人手も用意すると言うので安心です。
喫茶店のマスターに言われたように死亡診断書を記入して前橋市
斎場の火葬予約を確認すると、翌日の午後三時の火葬予約が取れ
ました。 死亡は本日の午前であり、翌日午後三時なら二四時間
以上経過なので全く問題はないのです。
続いてお寺の予約ですが、当方紹介の寺が対応できる事になり、
初めての自宅葬儀は、比較的忙しない時間の中で進められること
になったのです。
死亡届出書が出来上がったのは午後五時近く、すぐに火葬を行
なう前橋市の市役所に電話をしたのですが、火葬場の予約は取れ
ているので、明日の朝一番に来所してくれれば良いとの事。
一旦前橋市の事務所に戻り、自宅葬儀道具一式を積み込んで高崎
市の街中にあるビルの自宅に戻った頃は、外が暗くなり始めてい
ました。
狭いエレベーターに葬具を目一杯積み込んで、七階で下ろすと
部屋に運び込みます。 真新しい白幕を部屋四方の壁に張るのも
初めてです。 新品の四枚屏風を一対、横に広げて立て、その前
の中央部に三段の祭壇を置き、両サイドに生花のかご盛一対と、
レンタルのキラキラ回転灯一対と、回転灯篭一対など全ての飾り
付けを終える頃には、いつの間にか故人の兄弟姉妹や子供達など、
数人が集まっており我々の仕事を見ていたのです。
次は死化粧をしようと顔の当て布を外すと、倒れた時に打った
のでしょう。 顔にアザができていたので、千明にコンシーラを
買ってくるように指示をして、ご遺体の顔を綺麗に拭きます。
初老ですが、小奇麗にしている女性で、手足にマニキュア・ペデ
ィキュアをされ、おしゃれな方のようです。 ご遺体の顔に乗せ
るファンデーションや口紅の色を作っていると、千明がコンシー
ラを買って戻ってきました。 コンシーラを塗りながら、ご遺体
に話し掛けます。「突然倒れて、まだ自分が亡くなった事さえ分
らないかもしれないけど、知り合いの方々が来てくれたようです
から、綺麗になってみんなと会おうね。 僕も頑張るからね」
コンシーラでアザを抑えて、化粧をし終えると結構美人さんです。
髪をムースで整え化粧、整髪が済むと、もう一度ドライアイスを
主要箇所へしっかり当て、布団を掛けると、待っていた故人のご
家族を呼び、お顔を見て頂き、末期の水を取り、線香をあげて貰
います。
全ての人が線香を上げ終えると、自己紹介して明日の葬儀説明や、
スケジュールの説明を行います。
「故人の住所が東京であると聞きました。 住んでいるのは高崎
市ですが、市民ではないので、高崎市斎場での火葬には三二、五
〇〇円掛りますが、故人の親戚の方が前橋市民だという事なので、
前橋市は六親等以内の身内市民が申請すれば、前橋市民同様無料
で火葬できるのです。
だから自宅で葬儀をした後、少し遠くて大変ですが前橋市斎場に
移動して火葬となります。
午後三時の火葬なので九〇分後の午後四時三〇分頃に拾骨をして、
高崎市の自宅に戻り焼骨を祭壇に安置すると葬儀の全てが終了と
なります。
さらに葬儀の翌日は、当方所有の県内北部にある散骨場に向かい
散骨となります。
葬儀当日は午前十一時からの湯かん納棺の儀、昼食を挟んで午後
一時から葬儀、午後二時に出棺し前橋市斎場で午後三時の火葬、
約九〇分後の午後四時三〇分頃拾骨となりますので、高崎市の自
宅に戻れるのは午後六時近くですね」
初めて尽くしでグッタリ疲れはしましたが、順調に事が進んでい
る事に安堵して事務所に戻り、明日の予定を再度千明と確認をし
て家路に着いたのです。
葬儀当日の朝九時、前橋市役所の窓口に死亡届を提出すると、
中々手続きが進まず「どんなに調べても申請者と故人が繋がらな
いのですが・・・」と言われたので「えっ?申請者は親戚の方で
すよね?」と聞き返す。
担当者は「私もそう思って戸籍をたどったのですが全く繋がりま
せん。 この方のままだと申請者に成れないので、火葬許可証が
出せないのですが・・・」
と言われた瞬間(心臓はドッキーンどうすりゃ良い? 昨日印鑑
を借りた方は、てっきり親戚だと思い込んだまま、ちゃんと確認
をせずにいたからなぁ、どうしよう・・・
こうなったら仕方ない同居人の男性に申請者になって貰い、市民
外火葬費用6万円は、うちで払うしかないだろうな」そう思って
窓口から、死亡届出書類を返して貰おうとした時、窓口の担当者
から「でもこの人、都内の人ではなくて高崎市民ですよ」
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・・・つづく
誰もが終幕後の費用を心配することなく、自分の人生を精一杯楽しめる世の中にしたい
創業者の思いを後世に伝え、当時何を考えていたか嘘のつけない自分日誌でもあります