納車の日、経営する美容室には30台ほど駐車スペースがあって、そこに霊柩車を積

んだトラックが入って来た。 車体後部から橋のようなものが出ると霊柩車をバックで

下ろす。 黒光りした車体はネットで見た通り綺麗なのでホッとする。 事務所で受け

渡し書類の確認をすると、案の定3ヶ月点検もしっかりされているのできっと30万キ

ロとは行かなくても、あと5万キロ位は走ってくれそうだと無知ながらに思えた。

 すると「初めての霊柩車ですか? 」と聞かれ「はい」と答える「では一般貨物自動

車運送事業の許可は? 」と聞かれたので「それ、なんですか? 」と言うと緑ナンバ

ーのトラック業者の許可で霊柩車を稼動させるのには必要だと言う。 その際に横浜で

試験を受けて、合格すれば12万円の登録免許税を支払うとの事。 まずは陸運局への

申請が大変で行政書士に依頼する方法もあるが10数万~30万円ほどの費用は掛る。

但し霊柩車なので自賠責保険や税金は安い、等々続け様に色々教えてくれたのですが、

聞いている側の理解力が無さ過ぎてちんぷんかんぷんです。 それでも30分ほど説明

をしてくれ「分らない事があったら何でも聞いてください」と言って帰ったのですが、

話しの中で、尾崎豊の葬儀で霊柩車を運転していたのは自分でファン達が殺到して霊柩

車の車体に傷をつけられて参ったと言っていました。 このあと、群馬県富岡市にある

霊柩車の改造工場に行き、注文してある高級霊柩車を引き取って都内の事業所まで戻る

と言っていました。 不要になった霊柩車を購入して、低費用の火葬を実現しようとし

ている者もいれば1.000万円以上の霊柩車を持って帰るのだと言う人が、同じ場所

に居るのですから何だかおかしな構図ですが、この時ばかりは、自動車に関心の無い自

分で良かったように思えました。

 駐車場に置かれた霊柩車のドアを開け乗り込んでみるが、嫌な臭いなどないし綺麗に

乗って来たのは僕でも分る。 ちょっとだけ駐車場内を運転すると、前輪が浮き気味?

という印象ですが、まだナンバーも無くガソリンも殆ど無いので、一番奥の目立たない

場所に駐車した。

霊柩車を汚さない為に努力するも・・・結果は何も残らず

 事務所に戻って千明と話す「なんだか、すんげー大変そうじゃねぇ? 」「ですよね。

ところで霊柩車は野ざらしのままで置くんですか? 」と言われ調べてみる事にしたの

ですが、屋根だけのカーポートでも10万円は掛るようで、とても手が出ません。

もっと安い物はないかと探すと、あった、ありました。パイプを組立て、テントを被せ

るカーポートが3万円ほどで買えると分りすぐにネット注文をすると、千明が入金に走

って振込完了。あとは商品の到着を待つだけです。

 数日後、待望のカーポートが届くと、霊柩車到着から本日まで雨は降っていませんの

で綺麗な車体を維持したままです。 助っ人二人を含む4人でテントの骨組みを立てる

と、テントを被せてみます。 何とか完成しましたが、本日は強風の為いまにもテント

が風にあおられて持ち上がりそうなので、せっかく張ったテントを剥がしたのです。

考えてみれば群馬は空っ風で有名な場所ですから、地面のコンクリートにしっかり止め

なきゃ駄目に決まっています。 その手の事が得意そうな知人に聞くと「アンカーボル

トをコンクリートに打ち込んで、テントの足を取り付ければ何とかなるだろう」と言わ

れ、ハンマードリルなる物まで貸してくれたので、生まれて初めてのコンクリートに穴

を開ける作業を行なったのです。 穴を開けたい場所にドリルの先がピタッと、照準が

合わない、そこで細いドリルで一旦穴を開けてから、太いドリルで開ける事にして作業

をすると(お、何とかなりそう・・・)ギュイーン、ドリルはコンクリートを突き進ん

で数センチ進むと突然、ズゴッ!・・・(あれ? なんだ? )すぐに先ほどの知人に

連絡すると、コンクリートだと思っていたのは古くなったアスファルトだろうと言う。

どうすれば言いかと聞くと、地面をカットして下地を打ってうんぬん・・・ちっとも分

らないので、とりあえず最後の穴まで掘ってパイプをネジで止めると、またまたテント

を被せて完成。 「おっおー やったー」と喜んだ直後、先ほどの知人が心配して来て

くれた。 「どう?凄いでしょ? 俺達だけで張れたのって凄くない?」自慢そうに言

う僕に痛恨の一言「これじゃ風が吹いたら飛ばされますよ」「え? えっー駄目なの?

「はい このままで冬が来たら、間違いなく事故が起きますね」がっくーん・・・

2日間掛けて作った組立て式カーポートは無駄だったようで、テントを外し骨組みだけ

が残ったのです。

 けど雨が降ったら車体は汚れちゃうので、テントを直接車体に掛けておけば、雨風は

防げるからと、とりあえずテントでキャラメルのように包んだのです。

ところが、これが大失敗だった訳ですが、購入したのは良くある青いテントやシートと

同じ素材でガサガサしていたのです。 キャラメルのように包んでから2ヶ月ほど経っ

た頃、バッテリーが上がらないようにエンジンを掛けようとテントを剥がすと、久々に

対面した霊柩車は、嫁入りしてきた時はツヤツヤの肌でピカピカ輝いていたのに、たっ

た2ヶ月でシワシワ、ガサガサ肌のように、全面擦り傷だらけで真っ黒の車体が、濃い

目のグレーに変化していたのです。(ふー・・・)ため息しか出ません。

 気を取り直して、本来の目的であるバッテリー確認をするのでエンジンを掛けようと、

キーを挿し込み右に回す・・・シーン・・・外を見ると千明がニコニコしながらこちら

を向いています。 ん? もう一度右に回します。シーン・・・何事も無かったかのよ

うに静かで、何の反応もしてくれません。バッテリー臨終の瞬間でした。 

そこで、ボンネットを開けバッテリーのサイズをメモしようとすると、ボンネットが下

がり僕の頭にゴンッ・・・このクラウン、ボンネットの開閉ポンプが壊れているのです。

以前の車で同じ現象を経験していたのですぐに理解できたし大した問題ではありません。

元々がバッテリーの交換は想定内なので、すぐにネットで7.000円ほどのバッテリ

ーを購入します。 乗り出す時に乗せかえる為です。もうひとつのテントですが、車体

に出来た傷は乗り出し時に、機械で磨いて貰うことにして、紙製? のような車体カバ

ーを掛けていましたが、今は青空駐車で駐車しています。 あ、パイプだけのカーポー

トは今も骨組みだけで立ち続けています。

結構難関で面倒、一般貨物自動車運送事業の許可取得

 霊柩車稼動には結構面倒な手続きが必要なのと、費用も掛るらしい事は分りましたが、

内容は全く分らないのですぐに検索をすると代行料30万円とか、中には50万円なん

てのもあって代行金額を見ただけでも相当面倒なのは分りました。 申請後に横浜で受

ける試験の合格率は60%と決して高くはないようです。 さらに登録免許税、車検、

保険等全てを人に任せると最低でも150万円以上は掛るようですが、全てを自分達で

行なえば車体価格を入れても100万円で済む計算となります。

申請手続きは二人で作成し、何度も陸運支局に通って通過させ、試験は千明に任せたの

ですが、何とか一発で合格してくれました。

タイヤとバッテリーは新品と交換して、ユーザー車検という自分で車検場に持ち込んで

の車検は僕が担当したのです。 車検が通ると最後は支援地域内ならば全て統一料金設

定の提出ですが、予想外にすんなり通ったのです。 その後、適正診断やら、身体検査

・点呼用紙・アルコール検知器など、霊柩車に必要か? と思う部分も多々ありますが、

何とか全ての基準をクリアして営業車許可を取得したのです。

 営業ナンバーを装着した霊柩車で事務所に戻ると、ストレッチャーを出し入れする練

習です。 霊柩車からストレッチャーを引き出すと、たたまれていた足がバネで開いて

自立し、霊柩車に乗せる時はバネで足がたたまれるのですが、何度か自分で練習をする

と、次は千明が練習をします。 霊柩車のハッチバックを開け、ストレッチャーを引き

出した瞬間、ガッシャーン! 手前は足が出て高くなっているのですが、故人の頭の部

分となる側の足がたたまれたままで引き出されたのです。 「あれ?・・・」という千

明に「おいおい、故人を乗せていたら、頭から落下だよ」と言うと「ですよねぇ。おか

しいなぁ。もう一度やってみまーす。」再挑戦すると、ガッシャーン!「またかい・・・」

千明は「あれー?なんでだろ、よーし! ゆっくりやれば良いんだ」と一人納得し

たように、ゆっくり引き出します。 手前の足元側の足は無事に出ました。 次は頭側

をゆーっくり引くとガッシャーン! 千明は「・・・」「もしかして、最後までレバー

を握ってない?」「はい、ちゃんと握ってます!」「だからだよ・・・」漫才のような

練習もして後日スクープストレッチャー(縦2つに分かれるストレッチャーで遺体の下

で組めば、遺体を持ち上げ無くてもストレッチャーに乗せられ、自宅で布団の上にスト

レッチャー毎置いて、左右に分ければ、遺体は布団の上に寝ているという優れもの)も

購入したのです。

 平成23年2月下旬、前年9月にオークションで購入した霊柩車は、新たな緑色のナ

ンバープレートを装着して、購入から5ヵ月後に稼動可能となり、平成23年3月1日

【5万円火葬支援パック】がスタートしたのです。 つづく

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