専用散骨場が生まれるまでの流れはこんな感じでした。 知人からの紹介で初めて

事務所に来たのは50代前半の男性でした。  父親が胃がんで
入退院を繰り返して

いるが、段々弱っていく姿を見ていると、もしもの時の相談をして
おきたいと考えての

来社だったようです。 自らはあまり、多くを語らずに、質問には答
えるという姿勢で

事前相談らしき打ち合わせは終了したのですが(聞いているだけなら
本当に良い話し

けど、今時の葬儀屋でそんな良心的な奴が居るとは思えないし、葬儀業界自体が

嘘臭い業界だろうが)とその時は思ったのだそうです。

また、葬儀屋なんて何処でも大差無いと思っていたとも言ってました。

 それから、ほんの数ヵ月後、突然逝去の知らせが入り、彼の地元である前橋から

北へ
1時間の距離にある沼田市での葬儀となったのです。 葬儀の数日間我々を見て

いた彼
は、数ヶ月前事務所で聞いた話しは全て本当の事だったと分ったのだそうです。

逝去から3日目の葬儀の朝「家族の体調は大丈夫ですか? もし思わしくない時は遠慮

せずに言ってくださいね」と言う我々に「この数日を見ていて、お二人こそ身体を壊さ

ないか心配です。 無理しないでください」と言われたのですが、この時、彼の中で何

かできる事はないだろうかと考え始めたと言っていました。 葬儀が済み精算も完了す

ると、「あの~、遺産相続は詳しいですか? と言うのです」「特別詳しくはありませ

んが、あなたの場合一人息子で難しい問題も無いし自分でも充分できるはずですよ」と

答えると、「はぁ・・・一緒に行って貰えませんか?」と言うのです。

 後日、車で1時間掛けて沼田市の法務局に行き、駐車場で待ち合わせをして、建物に

入る前に伝えておいたのは「職員の話しを聞いていて理解できない時は、僕の顔を見て

ください。 それなら分らない部分がすぐに分かるので、職員に再度質問をするか僕が

確認するように聞き返しますから分り易いと思います。 それで分ったらコクッと首を

縦に振ってください」という事でした。 話しが始まると時々僕の顔を見るので再確認

をしながら話しを進めます。 その後、何事もなくスムースに名義変更も終わったあと

で彼が事務所に訪ねて来たのです。 軽く挨拶をすると彼が話しを始めます。「今日は

散骨場を提供しようと思って来たんですよ」「は? なんの事ですか?」そういう僕に

彼は言います。「初めて来た時に色々な話しをしましたが、その時、武井さんがいずれ

は散骨場と納骨堂を持ちたいって言ってたじゃないですか? その散骨場を親父の残し

た山林がいつくかあるので何処か使って貰おうかと思って」というとニコッと照れ笑い

をしたのです。 続けて彼が言います「最初に来た時は正直うさん臭さいと思ったし、

信用もしてなかったけど、親父の葬儀で動いているお二人を見てると嘘なんかじゃねぇ、

全て本当の事だったと分った時、何だか自分が恥ずかしくなったんですよ。 だから本

当は沼田の法務局に来て貰った時、散骨場を提供しようと思ってたんですけど、どうも

タイミングが上手く掴めないまま、前橋に帰っちゃったので、今日来たって訳です」と

いうと、またまた照れたような赤い顔で笑うのでした。 これが専用散骨場を所有した

瞬間だったのです。

なぜ今、散骨と考えたのか?

 あんしんサポート専用散骨場は、葬儀をされた家族の好意で生まれたのです。 実に

ありがたい話しですし、折角の好意を活かす為にも、まずは【山林散骨の定義】と言う

か法律を調べます。 調べて分ったのは、いくつかの条件があるものの法律での規定は

殆どないという事です。

・2ミリメートル以下の粉骨にする

・自己所有地、或いは所有者の了承がある(節度を持って行なうと定義しており河川や

海などには漁業権があるので、その辺も犯さないのが節度と考えています)

・また、山林散骨の場合、地域住民の心証を害することの無い対応も考慮が必要です

・樹木葬は、墓の定義に触れるので散骨とは似て非なるものです

この点を踏まえて、あんしんサポート設立当初から、永代供養墓と散骨を提唱してきた

理由を改めて記してみたいと思います。

 まず第一に少子化ゆえなのでしょうが墓守不在で無縁化している墓が、どんどん増え

ているのです。 高い費用を掛けて墓所の永代権利を買い、墓を建てても後が居ないと

考えている人が増えている現実。 

次は大手企業に就職すると、北海道、九州を始めとして全国へ、或いは世界への転勤も

当たり前のようにあるのです。 数年前、群馬県前橋市にあったダイハツの工場が閉鎖

されて九州へ移転された事で転居された方が沢山いらっしゃいます。 そうなると墓が

足かせになるって事です。 これが海外なら尚更でしょう。

 そこで、焼骨の中から喉仏と呼ばれる第二頚椎のみを和紙、ガーゼ、ちりめんに包ん

でから小さな容器に入れ、自宅の仏壇や茶だんすなどで手元供養すれば、もしも孫子が

墓を建てる事になっても焼骨はあるし、転勤になっても持って行ける。 また自分が逝

去するまで自宅にあるなら、自分の焼骨と一緒に処理をして貰えば良いのです。

喉仏以外の焼骨は自然の中に散骨するのですが、墓の中に入れた焼骨も33回忌が過ぎ

れば、カロート内に撒くのが通例で、結局は土に還すのですから自然に還すという意味

では自然散骨というのは最善の方法かもしれません。

 もうひとつの永代供養墓とは、喉仏を入れた小さな容器を、高層住宅のような感じで

預かっておき、墓を建てる、転勤する、などの場合はいつでも出せて三十三年が過ぎた

焼骨は土に還すという考え方です。 これなら、いつでも誰かが墓参りしてくれるでし

ょうから一石二鳥です。

 次は費用の設定です。 火葬場から直接預かって来た焼骨を粉骨にする為に業者に出

す費用と、喉仏容器と線香類費用、あんしんサポート事務所から散骨場までの送迎費用、

無償で良いと言われてはいますが、そうもいかないので散骨場を使用する使用料が基本

で、火葬から時間が経過をした焼骨は湿気を吸っており乾燥も必要です。ちなみにカロ

ート内にある骨壷は年数が経つと水浸しになっているのが普通です。以上から散骨は税

込8万円で設定しました。

息子の焼骨を自宅に抱えたお婆さん

 平成22年9月半ば高崎市在住のお婆ちゃんから散骨の話しを聞きたいとの電話です。

電話で詳細を伝えるのは難しいので、来社できるかどうか確認をすると、足が悪くて病

院に行くにも手押し車で押して行くと言うのでこちらから出掛けていくことにしました。

電話から数日後、聞いた住所を捜しながら行くと戦争で焼けなかったのか、住宅が密集

しているような市街地の住宅地で、その中に建つ小さな一軒家だったのです。

 中に案内されると、部屋中に色んな物が置いてあり、万年床の上には飼い猫が自分の

場所だと主張するかのように座って、我々の存在など意にかえさないかのようです。

こたつの布団を外しテーブルで使用している周囲の空いてる場所を探して座ると、簡単

に挨拶をすませ、お婆ちゃんの話しを聞きます。

 「実は去年、次男が埼玉で亡くなったのですが、遺骨が隣の部屋に置いてあります。

墓も無く骨壷を見るたびに自分が生きているうちに何とかしなきゃ・・・とは思ってい
たのですが、配膳で来てくれるNPOの人が県庁から2枚のパンフレットを持ってきて

くれたんですよ。その一つお寺さんが運営するNPOに問い合わせたら、見積り書が届

いたので見ると17万円ほど掛り、その他に毎年数千円の管理費が掛るみたいです。

年金暮らしの私には、とても無理だったので8万円散骨って書いてあったあんしんサポ

ートさんに電話させて貰ったんですけど、やはり毎年の管理費は掛るんですか?」まず

は、管理費は不要と伝えた後で色々聞くと、家は親戚の物なので家賃を払い、電気水道

光熱費、生活費、医療費までの全てを年金だけで、たった一人での生活をしていると分

ったのです。 どう考えても楽な生活ではないのは誰が聞いても明らかです。 隣に座

っている千明に聞きます。「散骨費用を下げる方法ってあるか?」少し考えて「粉骨を

自分達で行って、容器類を省けば最大3万円までは可能ですけど・・・機械が何十万程

度するのか、何百万なのかは全く分りません」今度は僕が考えます。 粉骨にする機械

の値段は分らないが3万円値引きまで可能なら5万円で出来るって事です。「じゃあ、

お婆さん、今聞いていた通りなので5万円で良いですよ。 これが僕らの精一杯のよう

ですが、いかがですか?」お婆さんは、即答で「はい結構です。来月半ばに年金が入っ

たら、すぐに連絡させて頂きます」との事です。

 事務所に戻ると、すぐにホームページに記載してある散骨費用を8万円→5万円に変

更をして粉骨する機械を調べます。 正直、数万円で買えるだろうと思っていたのです

が、結果は40万円もする代物だったのです。 よーく考えてみれば、そうそう売れる

物とは思えませんから高くてもしかたないか・・・ですね。 どっちにしも10月半ば

までには粉骨機械を買わなきゃです。

 それから数日過ぎた頃、お婆さんとの会話や生活の様子が何度も頭をよぎるのです。

10日が経ち20日が経過してもお婆さんの様子や顔が頭から離れる事はありません。

更に時は過ぎて10月に入った頃、事務所で僕と向かい合って座る千明に言います。

「俺さぁ、5万円で散骨を引き受けたけど、このまま実施して、お婆さんから5万円受

け取ったら、後で後悔をするような気がするんだよなどうする? 」「で?、どうせ何

か考えているんでしょ? 」と言う千明に「うん、遺骨を自宅に抱えて心を痛めている

人って他にも居るんじゃねぇかなぁって考えると、毎回は無理だけど一度だけ全て込み

の1万円散骨ってどうかな?」とこの数日、考えていた事を伝えます。

すると「なるほど、一度だけなら、散骨場提供者にその旨を伝えれば費用面なら何とか

なりそうだし、良いかも・・・で、全て込みって?」「うん、いつもの散骨内容に前橋

から散骨場まで、片道1時間30分の送迎バスまで入れて1万円って考えたんだけどさ

ぁ」「それいいかも」これが1万円合同散骨が決まった瞬間であり、まだバス代すら分

らないのに、お婆さんに半年ほど先になるけど1万円散骨を実施するから、待ってくれ

るよう電話したのです。 つづく

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