死化粧に関して言えば、もうひとつ、僕の中だけで引っ掛かっていた事がありました。

それは、四十代の女性だった事もあり、綺麗に化粧をして、真っ赤な口紅が好きだった

からとルージュをひいた故人の顔は、確かに綺麗なのですが、何となく違和感があった

のです。 それが何かは、その後、暫く分りませんでしたが、あるお婆ちゃんの葬儀で

ハッキリ分ったのです。いつものように納棺師の女性が死化粧をすると、綺麗なお婆ち

ゃんになりました。が、何かが変です (なんだろう? 何が変なんだろう? ) 暫くお

婆ちゃんを見ていると、目は閉じているのに、頬紅は赤く、口紅も赤く、起きている時

の化粧なのです。 なんて言えば理解して貰えるのか分りませんが、昼間、起きている

時の化粧のままで寝ている人なんていません。旦那さんに素顔を見せないっていう人だ

って、普段の化粧ではなく、寝化粧をするはずです。そう、本来なら眠っているような

化粧のほうが自然なのだと思いました。寝ているような化粧には、見た目から来る家族

の心を癒す効果さえあると分るのに、更に半年の期間を要しました。その後、納棺師と

して死化粧をする時は、眠っているような顔にと意識しながらの化粧をした事もあって、

「眠っているみたい・・・」との言葉が家族のくちから出るようになりました。眠って

いるような化粧を初めから意識して行った葬儀とは・・・ 相談に来たご夫婦が言うに、

母親であるお婆ちゃんは何年間も寝たきりなので、膝を折り曲げたまま横向きに寝てい

ると言われ、もし身体の幅が棺の幅よりも大きければ棺に入らないから、もしもの時は

何らかの方法を考える必要があると、一度入院先の病院まで行ったのです。

 この状態は過去にも何度か経験があります。棺に入らない時は骨を折って入れるの?

などと乱暴な発言をする家族も中にはおられますが、骨を折るなど、我々には到底無理

だから事前確認しに行くのです。病室に入りお婆ちゃんの身体幅を上からスケールで計

ると、問題ありません。「大丈夫ですよ」これ以上の言葉は、殆ど反応はしない病人で

も言葉には出来ません。すると、案内してくれた、義息子となるご主人が「うちのかみ

さんが手を出すと、指を握って頬擦りまでするんだから、かみさんの姉妹は、お婆ちゃ

んは何も分らないって言うけど、絶対に分っているんだよね」と言うので、何となく僕

の指を、お婆ちゃんの前に出してみました。すると、お婆ちゃんは、赤ちゃんがするよ

うに僕の指を握って自分のほうへと少し引いたのです。温かい手で、僕の指を握るお婆

ちゃんは、何だかとても可愛く思えたのでした。

 お婆ちゃんが亡くなった一報が入ったのは、その翌々日の午後でした。どしゃぶりの

雨の中、自宅に戻ったお婆ちゃんは、安置祭壇の準備が出来上がると、その日の夕刻に

は死化粧をします。一度会っているお婆ちゃんだったから声を掛けながら化粧をします。

「お婆ちゃん、眠っているような顔の化粧をするからね」そう言うと、病院でしてくれ

た化粧を取り、顔に出来たシミはコンシーラで隠してから、ファンデーションを首まで

しっかり塗って上から粉おしろいをたっぷり着けて、余分な粉はブラシで落とすと基本

は完了です。そこから色物のほお紅・口紅をつけて、髪をセットすれば、眠っているよ

うな、起こせば目を覚ましそうな顔のお婆ちゃんになりました。

 化粧をしながら、故人の娘さんと話をすると、お婆ちゃんは誰でも指を握る訳でなく、

嫌な相手には自分の手を引っ込めるのだと言います。「きっと、私の最後はお願いねっ

て言ってたんだね」と言われました。真意のほどは分りませんが、化粧をした僕が見て

も眠ったような顔に見えるのですから、家族の心はほんの少し癒されるのでしょうね。

 それから、四日間の間、お婆ちゃんの顔に当て布が掛けられる事は一度もないままに、

火葬まで行なわれたのですが、娘さん達やご夫婦は「お婆ちゃんの寝ている布団が上下

に動いている気がする」「声を掛ければ、すぐに起きそうな気がする」と、何度も・・

何度も言っていました。葬儀を明日に控えた三日目の夜、喪主を務めた三女がこんな風

に言いました。「私はすごく臆病で、何でもない日の夜だってトイレが嫌なくらいなの

に、お婆ちゃんの隣で寝ることができるよ。だって、頭では死んだって分っているのに、

顔を見てると生きているとしか思えない寝顔なんだもん」隣に居たご主人もニコニコし

ながらうなづいています。

 この時、半年前に疑問だった答えが分ったのです。本当に眠ったような顔に死化粧で

きた時は家族の悲しさ、寂しさ、辛さが、ほんの少しだけ癒されることもあるのだとい

うこと。目を閉じた人の顔には、どんなに派手な化粧が好きだった故人だとしても、眠

っている時のような化粧の顔が、家族にとっては一番自然に受け入れられるのだという

ことでした。そんな化粧ができるようになったのは、僕が美容師に化粧を教える技術を

持っていたからだけでなく、この数年間で何度も、突然、頭の血管が切れて亡くなった

方や、お風呂場で亡くなった方など、葬儀社で手におえないご遺体の化粧を依頼され、

家族が納得できるような化粧をする機会が与えられたがゆえの賜物でもあるのでしょう。

家族目線総集編【葬儀の内容や要不要、その基準は誰でも持っている】

 あんしんサポートで行なう葬儀内容は、師匠である葬儀社の他、支援地域毎に依頼す

る葬儀社も増えて、各葬儀社の良い部分を取り入れる事から始まり、家族が何を望むの

か、家族ならどう考えるのか、いわゆる家族目線での葬儀を心掛けているからでしょう

が、他社の真似ではなくてあんしんサポートオリジナルの葬儀内容となっていたのです。

 そこで、【家族目線なら・・・の総集編】として、迷った時の判断基準を記しておき

ましょう。例えば、本書にも書いた【業者湯かん】と【簡易湯かん】などは、どちらが

良いか良く聞かれる項目のひとつです。聞かれた僕はこんな風に答えます。

 【自分が故人だったら・・・】と考えれば良いのです。初めて見る他人が自分を裸に

して風呂に入れてくれた後で身支度を整えてくれる行為に10万円掛ったとしても良い

と思うなら、きっと家族である故人もそう思うでしょうし、自分が嫌だと思うとしたら、

家族である故人も嫌だと言うでしょう。

 これは湯かんだけでなく、棺・骨壷・祭壇生花・料理・返礼品など、また位牌や新盆

など、どんな物を決める場合でも同じで【業者や親戚の誘導に惑わされず、自分ならば

どうするかで決める!】これだけは忘れることなく、絶対に覚えておくべきでしょう。

つづく

↓↓↓↓
  
にほんブログ村


ひとつひとつの葬儀を確認・反省・向上する為に書く実践日誌でもあり、

これから葬儀を
経験される方々が後悔しない為に役に立てたらとの


思いを込めて書いています。 宜しければクリックをお願いします