真冬の午前3時を過ぎたとき携帯電話が鳴る。 この時間帯に千明からの電話なら


ほぼ間違いなく搬送依頼だが、 電話に出ると予想通りだった。


前橋市内の自宅で逝去されたらしいが、主治医の死亡診断が済んで電話をされた


ようなので、自宅死亡でも警察の検死は入らないパターンのようである。 ただ少し


気になるのは、自宅が公営住宅の5階らしいことだ。 エレベーターはあるのだろうか


階段の広さはどうなのだろう? そんな事を考えながら事務所に到着すると すぐに


搬送準備をして出発。 途中ドライアイスを準備して指定の公営住宅に到着する。


・入口が4カ所ほどある5階建てで、階段を上って両側に各部屋入口のある建物


・車は入口前までは入れず、建物横の道に駐車するしかない


・階段は決して広くはないし、棺では通るのが難しい状況


ある程度、建物の様子を見てから5階自宅まで階段を上がるが、3階から5階まで


上がるのに結構しんどい・・・ 子供や若い人ならトレーニングとして最適だろうとは


思うが、これを毎日何回も繰り返すとしたら、年配者には相当堪えるだろうと思った。


何とか5階に到着すると息を整えて呼び鈴を押す。 すぐに中から初老の男性が


顔をだして招き入れてくれた。 玄関を入ると右側に2部屋あるようで奥の部屋に


通されるとベッドがあり、その上に奥さんのご遺体、その横には娘さんらしき人が2人


座っていた。 医師の確認は済んでいるようだが、顔当布もなくレースのような透き


とおった白い布が掛かけてある。 珍しい安置光景だが手も組んでいないので故人の


宗教的な思想の為だろうと推測ができた。 簡単に挨拶を済ませるとご主人が言う


「新聞記事も取ってあるしホームページも確認してありますから全て分かっています」


との事。  新聞記事とは、以前僕を取り上げた記事の切り抜きのことだろう。


依頼内容は『5万円火葬支援パック』を希望されたが、問題はこれから予約をする


火葬日時まで、何処にご安置するかである。 上に書いたように、ご遺体の入った


棺が簡単に下ろせる状況に無い5階なのである。 そこで言う「これから火葬予約を


しますが、火葬日時までご安置する場所を確保しなければなりません。 自宅では


棺が下ろせないので方法は2つです。 1つは民間式場内にある安置部屋を借りる


方法ですが2日間だとしても4万円掛かります。 2つ目は公営斎場の霊安室使用


ですが、先に火葬手続きを取って、午前9時~午後5時15分までに搬入しないと


預かってくれません。費用は24時間で3000円と格安ですが、冷蔵庫なので一旦


預けたら火葬まで会うことはできません。 どちらが良いですか?」 ご主人が選んだ


のは公営斎場霊安室で、娘さん達も了解のようです。 すぐに火葬日時の予約を


電話で行い翌日の午前11時火葬で決まりました。 普通に考えると逝去から火葬


までの時間が短いのですが、選択が斎場霊安室である為、冷蔵庫に何日も誰にも


会えずに一人で置いておくなら早い火葬のほうが良いだろうと判断したからです。


さて問題は、ご遺体をいつ下に下ろすかです・・・ 現在時刻は午前4時30分・・・


今なら外は真っ暗で、普通に考えて人が外にいる時間帯ではありません。 人目に


触れずに下ろすなら今しかないと、その旨を家族に伝えると「えっ!? お母さんを


部屋から出しちゃうの?」と言う娘さん達に言います。 ・・・つづく


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