生まれつき歯が1本もしくは複数本生えてこない場合があります。通常、6本以上の大人の歯が生えてこない場合は「先天性無歯症」と呼ばれています(発生頻度は約1,000人に1人)。これまで、根本的な治療方法はなく、大人になってから入れ歯やインプラントを用いて、見た目や機能を回復する対処方法しかありませんでした。

 

ところが、最近、日本においてこの無歯症に対する画期的な治療研究が急速に進展し、患者さんに実際に応用される前段階にまで進んでいるというニュースが世界中で話題になりました。

 

具体的には、北野病院とその関連グループが進めている先天性無歯症に対する歯の再生治療薬(通称「歯生え薬」)の研究が、2024年3月25日に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から承認され、京都大学医学部附属病院の協力のもとで医師主導治験が開始されることになりました。

 

先天性無歯症の患者さんは、顎骨が発達する幼少期から無歯症であるため、成長期に食べる機能が低下(オーラルフレイル)し、歯を支える顎骨の萎縮など成長にも悪影響を及ぼします。このため、根本的な治療として歯の再生治療の開発が強く求められていました。

 

研究グループは、2007年にUSAG-1タンパクの遺伝子欠損マウスで過剰な歯の形成を発見し、1種類のタンパク分子で歯の数を増やすことができることを明らかにしました。そして、2019年には、先天性無歯症モデルマウスと過剰歯モデルマウスを用いて、歯の形成が回復することを確認。さらに、先天性無歯症モデルマウスにUSAG-1siRNA(核酸製剤)を局所投与することで、欠損歯を回復させることができることを示し、USAG-1の標的としての有効性を確認しました。

 

その結果、研究グループはUSAG-1を標的とする中和抗体を作製し、知的財産権を取得。2020年には、研究成果を活用するためにトレジェムバイオファーマ株式会社(代表取締役 喜早ほのか、)が設立されました。

 
 

 

京都大学HPより引用(開発者の喜早ほのか氏(左)と高橋克氏(右))

 

USAG-1タンパクは、ヒト、マウス、ビーグル犬などの異なる動物種間で97%と非常に高いアミノ酸の相同性を持っており、2021年にはモデルマウスとビーグル犬に単回の口腔内投与や静脈内投与で欠損歯を回復できることが明らかになりました。そして、最終的に、ヒト用抗USAG-1抗体「TRG035」を開発するに至りました。

 

治験では、「2歳から7歳で4本以上の先天欠損歯を持つ患者さん」が対象となる予定とのことです。この治療法が確立されれば、インプラント治療に比べてさらに大きなメリットが得られる可能性があり、多くの期待が寄せられています。

 

現在、国内において実用化を目指した研究開発体制が整備され、治験対象者のデータ集積がすでに始まっています。もしご本人やご家族に以下の症状が見られる場合、先天性無歯症の可能性がありますので、まだ、実用化前の段階ではありますが、下記のお問い合わせフォームからご連絡いただくのもよろしいかと思います。

  • 15歳になっても乳歯が残っている
  • 乳歯が抜けたのに永久歯が生えてこない
  • 歯の数が4本以上少ないと言われたことがある

問い合わせ: https://toothreg.jp/contact/

 

by: 井汲憲治(院長)