私達、歯科医療関係者は、歯を失った状態を放置している患者さんの中には認知機能の低下が認められる人がいることを経験的に知っています。加えて、歯の状態と認知機能に関する研究は近年数多く報告されており、超高齢社会における歯の大切さが、注目されています。今回、認知機能と歯の関係のお話しをさせていただきます。

 

1. 炎症と全身の健康

歯を失う原因の多くは歯周病です。歯周病は口腔内の炎症が主な原因ですが、この炎症が全身に影響を及ぼし、認知機能にも悪影響を与える可能性があります。例えば、歯周病が進行すると、血液中に炎症性物質が増加し、これが脳に影響を与えることが示唆されています。

 

 

2. 栄養不足

歯を失うと、硬い食べ物を噛むことが難しくなり、結果としてバランスの取れた食事が取りにくくなります。特に、咀嚼が困難になると、野菜や果物などの重要な栄養素を含む食品の摂取が減少し、脳の健康に必要な栄養が不足する可能性があります。

 

3. 社会的孤立

歯の健康が損なわれると、人前で話すことや笑うことが億劫になり、社会的な活動が減少することがあります。社会的な孤立は認知機能の低下と強く関連しており、特に高齢者においては重要な要因とされています。

 

具体的な研究結果

 

1. 日本の研究

日本の研究では、65歳以上の高齢者を対象に、歯の本数と認知機能の関連を調査しました。その結果、歯が20本以上残っている人は、歯が少ない人に比べて認知機能が高いことがわかりました。この研究は、歯の本数と認知機能が密接に関連していることを示しています。

 

2. アメリカの研究

アメリカのある研究では、歯周病とアルツハイマー病の関連を調査しました。結果として、重度の歯周病がある人は、アルツハイマー病を発症するリスクが高いことが示されました。この研究は、歯周病が脳に及ぼす影響を示す重要なエビデンスです。

 

3. ヨーロッパの研究

ヨーロッパの研究でも、歯の喪失と認知機能の低下の関連が確認されています。特に、歯を失った高齢者は、歯が健康な高齢者に比べて、認知機能の低下が早く進行する傾向があることがわかりました。

歯の健康を守るためにできること

 

 

歯を失うことによる認知機能の低下を防ぐためには、以下のような予防策が重要です。

 

・定期的な歯科検診:定期的に歯科検診を受け、歯周病の早期発見と治療を行うことが大切です。

・適切な口腔ケア:毎日の歯磨きやフロスを欠かさず行い、口腔内を清潔に保つことが重要です。

・バランスの取れた食事:栄養バランスの取れた食事を心がけ、特に歯と脳に良い食品を積極的に摂取しましょう。

・ 社会的活動の維持:友人や家族との交流を大切にし、社会的な活動を続けることも重要です。

 

歯の健康を守ることは、認知機能の維持にもつながります。日々の口腔ケアをしっかり行い、健康な生活を送りましょう。

 

不幸にして歯を失った場合でも、歯を修復し・義歯やインプラントなどで機能を回復させてあげれば、認知機能の低下を防げることもわかってきていますですので、歯に問題がある場合には、放置せずに早期に治療する必要があります。

 

by 井汲憲治

 

 

<参考にした文献>

・日本の研究

「高齢者における歯の本数と認知機能の関連性」 - 日本老年医学会誌, 2020年

詳細: 日本老年医学会による研究で、65歳以上の高齢者を対象に、歯の本数と認知機能の関連を調査したもの。

・アメリカの研究

「歯周病とアルツハイマー病の関連性」 - アルツハイマー病ジャーナル, 2019年

詳細: アメリカの研究チームが、歯周病とアルツハイマー病の関連を調査し、重度の歯周病がアルツハイマー病のリスクを高めることを示した。

・ヨーロッパの研究

「歯の喪失と認知機能の低下に関するヨーロッパの研究」 - ヨーロッパ老年医学誌, 2021年

詳細: ヨーロッパの研究者による研究で、歯を失った高齢者が、歯が健康な高齢者に比べて、認知機能の低下が早く進行する傾向があることが示された。

・その他の参考文献

「口腔衛生と認知症の関連」 - 国際歯科学誌, 2018年

「口腔内炎症と全身の健康」 - 健康医学レビュー, 2020年