みなさんこんにちは。
技工士の飯塚です。
前回までは鋳造用金属(溶かして流し込んで固める金属)についてでした。
今回は屈曲用金属(曲げる)についてです
屈曲用には、クラスプ用と矯正用があります。
まずはクラスプ用から。
①クラスプ用ワイヤー
加工用の線材をプライヤーで屈曲して成形したものをワイヤークラスプと呼びます。
白金加金線またはコバルトクロム合金線が用いられます。
鋳造体よりも材料の組成が均一なため弾性に富み、鋳造クラスプよりもアンダーカット領域を走行させることが可能で審美性に優れます。
しかし、形態が鋳造クラスプのように漸縮(先細り)形とならないので、維持力・把持力は低い。
維持力を回復するために再度屈曲して、形態を微調整することが可能。
断面が円なので舌感が悪いが、歯質との接触面積が少ないため、う蝕になりにくい。
•線材の種類
1.金合金
JISにおける加工用金合金には2種類(歯科非鋳造用金合金、歯科非鋳造用低カラット金合金)が存在します。
具体的には16K、14K、白金加金線があります。
軟化熱処理状態で加工し、硬化熱処理して使用します。
加工用金合金は高い加工性、展延性、弾性、靭性を示すため破折せず、ロウ付けが容易で、再結晶温度が高い。
AuCu規則格子の形成や銀銅系のα相からβ相を析出する反応が生じ、強さや硬さが増加する
弾性係数がコバルトクロム合金の約半分にもかかわらず、比例限が高くレジリエンスが大きいので、しなやかで腰が強い性質をもちます。
2.12%金含有銀パラジウム合金(金パラ)
加工しやすく、ロウ付けを配慮し、鋳造用より融解温度は高い(1,100℃)。
軟化熱処理状態で加工し、その後硬化熱処理を行って使用する。
PdCu規格格子の生成ならびに銀銅系のα相からβ相の析出反応により硬化する。
3.コバルトクロム合金
コバルト(Co)の融点は1,495℃と高く、比重は金の半分以下。
また、常温で高い化学的安定性を示します。
クロム(Cr)は合金を不働態化し耐食性を向上させ、硬さを増し融解温度を下げる。
基本的な機械的性質が高く、口腔内での耐食性も優れています。
ニッケル(Ni)が添加された合金もあるので、選択時には組成を確認することに留意したい。
4.ステンレス鋼
鉄に0.04~2%の炭素を添加したのが炭素鋼、それにCrを約11%含有させたのがステンレス鋼です
表面に酸化Cr皮膜(不働態膜)を形成し、耐食性は高い。
歯科材料としては、SUS304とSUS316系統のオーステナイト系ステンレス鋼が用いられています。
5.チタン
チタンは優れた生体適合性と歯科用途に応じた機械的性質を十分に備え、供給が安定し、かつ安価であることから、歯科用金属材料として利用されています。
1~4種(JIS)に分類され、わずかな不純物によって機械的性質が大きく異なる。
ある程度までの不純物はチタンの強化に寄与するが、多くなると靭性を低下させます。
特に酸素の影響は大きい
金属の強さに関して…
それぞれの金属の機械的性質を十分に把握しておき、適材適所の観点から材料を選択する。
強ければよいというわけではなく、たとえば金合金の2倍のヤング率をもつコバルトクロム合金を使った場合、同じ寸法であれば維持力は2倍となるが、維持力を求めるよりもクラスプの直径を減じて異物感を減らすほうが得策だと思う