今回、お口の中の定期的な管理が生涯の医療費を抑えることについてお話いたします。

 

”歯の数”と”認知症”に関しての研究はこれまでもありましたが、日本歯科総合研究機構はNDB第3者提供データを用いた「歯数とアルツハイマー型認知症との関連」について、英語論文を発表し、その内容は雑誌「PLOS ONE April 30, 2021」に掲載されました。

 

この研究においては、2017年4月に歯周炎または歯の欠損を理由に歯科受診した60歳以上の患者、それぞれ401万名、66万名を対象として、アルツハイマー型認知症病名の有無との関係が検討されました。その結果、性・年齢の影響を統計学的に除外しても、歯数が少ない者、欠損歯数が多い者ほどアルツハイマー型認知症のリスクが高いことが明らかになりました。

 

(PLOS ONE April 30, 2021より)

 

このように、歯や歯肉を含めた口腔内の機能低下が、”認知症”に深く関連することは、これまでの研究によってもわかっていましたが、対象が400万人の患者を対象とした今回の研究は規模がとても大きく信頼できる結果であると思われます。

 

アルツハイマー型認知症のみならず、最近の研究では、お口の細菌や歯周病が、”脳卒中”、”心筋梗塞”、”糖尿病”、”ガン”にいたるまで、人間の命にかかわるすべての疾患に影響を及ぼすことが明らかになっています。

 

 

ところで、日本歯科医師会が、全国の40歳以上、約1万9000人を対象に行った調査では、残っている歯の数が20本以上ある人は、0~4本の人よりも、年間の医療費が平均で17万5900円も低いという結果が出ています。

 

この先、日本人の寿命は延び続け、2050年には日本の100歳以上の人口が100万人を突破すると推計されています。もし100歳まで生きるとして、歯周病菌が増え始める40歳以上から100歳までに60年間分の医療費の差額を計算すると17万5900円×60年=1055万4000円となるそうです。

 

この金額を1日あたりに換算すると、17万5600円÷365日=約481円となります。つまり、歯を20本以上キープする歯のケアを続けるだけで、毎日約500円もの医療費を得することになるそうです。

 

具体的に計算すると、適切な口腔ケアを行うことで1人あたりの生涯医療費が1千万円以上も安くなる可能性があるのです。

 

定期的な、口腔ケアは、もちろん歯を残すことに繋がり、よく噛んで快適な食事や会話を行うことに繋がり、生活の質の維持に欠かせないものです。人生100年時代を充実して生きるためにも、お口の中の健康管理の重要性は大きく注目されています。

 

当院においては、口腔ケア(メインテナンス)のために定期的に通われるお医者さん(特に内科医)の数がこのところ増加傾向にあります。普段から患者さんのお口の中と全身的な変化を、目の当たりにしているお医者さんは、口腔ケアの大切さに気付かれているのでしょう。

 

by のりはる