私たちは日頃虫歯や歯周病の治療を行なっているわけですが、それらの発病にはお口の中の細菌が大きく関わっています。ですから、私たち歯科医師や歯科衛生士にとって細菌は悪玉のイメージが非常に強いのが事実です。

 

そもそも、母親のお腹の中にいる胎児は無菌状態の羊水の中で成長するので、口の中にも細菌はいません。しかし、出生後に主に母親や家族からの細菌が新生児の口の中に移って定着します。母親の口の中にミュータンス菌が多いと、子どもの口に移行して虫歯になりやすいことも報告されています。

 

そして、細菌は成長とともに増え続け、大人の口の中には、300~700種類の細菌が生息しているといわれます。歯をよく磨く人で1000~2000億個、ほとんど磨かない人では1兆個もの細菌がすみ着いていていると言われています。全世界の人口が70億人ですから、いかに多くの細菌がお口の中にいるのかがわかります。

 

ここで話を腸に移します。腸の中の細菌のことを腸内細菌と呼びますが、これらの細菌は人間が食べたものを餌にして、互いに競い合い、助けあいながら生きる生態系(腸内フローラ)を作っています。

 

2015年にNHKスペシャル「腸内フローラ 解明! 驚異の細菌パワー」が放送されましたが、それを観た時の衝撃を今でも覚えています。腸内フローラが病気を防いだり、ダイエットや若返るに効果的であったり、さらにこころや性格にも影響を及ぼしていることを実証した研究の成果に驚いた方が多かったかもしれません。

 

ある日本人研究者は、無菌マウス(細菌が住んでいないマウス)はどれも通常のマウスよりも落ち着きがなく、わずかな音にも過剰な警戒心を持つ傾向にあることを発見しました。そこで、無菌マウスの腸内に通常マウスの腸内細菌を移植したところ、過剰な警戒心が収まり落ち着きを見せました。しかも、この効果は成長過程のマウスにおいて当てはまり、成長期を過ぎたマウスには効果はありませんでした。

 

この発見は、「マウスの脳は腸内細菌なしには正常に発達できない」という驚くべき結論につながります。 そのメカニズムは、現在までに完全に解明されている訳ではありません。

 

再度、お口の細菌に戻ります。今世紀に入ってから、全身の様々な病気の発症に炎症が関わっていることがわかってきました。 そして、口腔内細菌を含む細菌がかつて想像された以上にその炎症に影響を及ぼしていることが分かってきています。

 

全身の健康を維持・増進させる観点から、口腔内細菌や腸内細菌とうまく付き合うにはどうすればいいかについて、今後のブログで解説しようと思います。

 
by のりはる