「ほほう。

 

 こんな場所に人が訪ねてくるとは…

 よくここがわかったのう。

 

 

 よほどの思いがないと

 ここにはたどり着けん。

 

 

 お前さんも『迷える旅人』のひとりか。

 

 

 まあ、ひとまずそこに座りなさい。

 お茶でも淹れよう。

 

 

 何? 時間がないじゃと?

 バカを言うな。

 そうやって焦って先に進んだところで

 ろくなことになった試しはないぞ。

 

 

 さあ、いいから座れ。

 

 ああ、いい、いい。

 自分のことは何も語る必要はないぞ。

 わしには、ちゃーんと見えている。

 

 

 お前さんが今まで

 どんなことをしてきたか

 どんなことに苦しみ

 どんなことに悲しみ

 どんなことと戦い続けて来たか

 

 

 わしには、ちゃーんと見えている。

 

 

 

 …ほほう。

 随分長いこと、真実を知る旅に出ていたようじゃな。

 

 

 どうじゃ? 外に安らぎが得られる答えは見つかったか?

 

 

 フォッフォッフォ、まあ落ち着いて、

 まずはこのお茶を飲みなされ。

 

 

 

 

 いいか。

 お前さんは、これからは

 自分の中で答えを見つけていく旅に出るんじゃ。

 ここにある大量の書物は

 所詮ただのひとつの実践と検証に過ぎんじゃろう。

 

 

 お前さんの残りの人生全てをかけても

 これを全部読み解くなんて、土台無理な話じゃ。

 

 

 だがな、安心召されよ。

 

 

 この爺が

 お前さんにもっとも適した書物を選んでしんぜよう。

 

 

 

 …ほれ、あの棚。

 あそこに、光り輝く書物があるであろう。

 

 あれが、お前さんのために必要な書物じゃ。

 

 

  

 どれどれ。

 

 

 ああ、お前さんは

 よほど、自分を変えたい、

 自分を知りたいと思うとるんじゃな。 

 

 

 さあ、これを紐解き、

 まずは読んで聞かせよう。

 

 

 

 

 この書物の名は「深き闇の魔王」

 その昔、人を苦しめ、悩ませた魔王の1人じゃ」

 

 

 

 

 

 

この魔王は

あなたの心の闇の

一番深い、芯の部分にいる魔王である。

 

 

 

あなたに一番深く巣喰い

事あるごとに、あなたを支配してきた。

 

 

 

あなたは今まで

この魔王の存在に

随分と苦しめられて来たはずだ。

 

 

 

魔王は、天使に姿を変えている。

 

 

 

いつもは

あなたの心にそっと潜み

ニコニコと笑顔を向けている。

 

 

 

そして時々

ひょっこり顔を出しては

あなたにそっと囁き続ける

 

 

 

 

「それ、欲しいよね。どうしても欲しいよね」

「それを手に入れられたら、あなたの人生はバラ色だよ」

「それが手に入れば、あの子に勝てるよ」

「それ、手放しちゃったら、2度と手に入らないよ」

「それ、絶対、あなたに必要」

「それ、絶対、あなたにふさわしい」

「それがいなくなったら、あなた死んじゃうかもしれないね」

「それ、手放したらもうあの子に自慢できないよ…?」

「それ絶対あったほうがいいね」

「それ絶対あったほうがいいよ」

「いや、それなくちゃダメだよ」

「それ、なくちゃ絶対にダメだよ」

 

「それ、なくちゃ絶対にダメだからね」

 

 

 

そうやって魔王は

あなたを支配していくのだ。

 

 

 

我々は誰しもが

 

 

美しいものを見て

美しい音楽を聞いて

美しい景色を見て

美味しい食べ物を味わい

 

 

そうやって

楽しみや喜びをを感じていたい生き物であり

 

 

 

お金や

名誉や

ステイタスや

パートナーや

家族や

知名度や

ビジネスや

 

 

 

そうあってほしい、という思いと

そうあること、に対して

 

 

過剰な期待と

想像しえる未来の自分像を重ね

 

 

そうでなければならないもの、として

あなたを貪欲の渦に叩き込む。

 

 

 

あなたは欲に取り憑かれ、苦しみ続ける。

 

なんとかしてそれを手に入れたいともがき続ける。

 

 

でも、手に入らない。

でも、諦めきれない。

苦しい。

つらい。

 

でも、やっぱり欲しい。

でも、苦しい。

苦しい。

苦しい。

苦しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああもう

「この魔王」さえいなくなれば

私は自由になれるのに!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。

一度、考えてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

この「深き洞窟の魔王」は

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたにとって

 

 

 

善であったか?

それとも、悪であったか?

 

 

 

 

 

 

 

どちらの答えを、あなたは持つだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その魔王の名は「執着」

 

 

 

あなたの人生において

 

 

 

 

獲得欲を刺激し

名誉欲を高め

支配欲を呼び起こし

保存欲を荒ぶらせ

顕示欲を引きずり出し

 

 

 

それらすべての証明欲を、満たすものである。

 

 

 

 

 

 

…to be continued