あれは、トイレ掃除をしていた日のことだった。 我が家の便器に顔を突っ込む勢いで磨いていたら、ふと、かつての大事件――“味噌汁詰まり騒動”を思い出したのだ。
この事件の発端は、「味噌汁でも作ってみようか」という、気まぐれにも似た思い付きである。 アサリのむき身、昆布、そしてイオンで買った野菜――鍋物にも使えるカット野菜だ――を鍋にぶち込む。そこまではよかった。
が、調理器具がいけなかった。安物の電気コンロである。温度調節ができるかといえば、答えはノー。湯を沸かせばたちまちのうちに吹きこぼれ、僕は慌てて電源を切る。
菜箸を突っ込んで、ニンジン、ダイコン、冬瓜などの煮え具合をチェックしてみると、「しゃっきり感」がそのまま残っていた。ならばと、余熱に期待して1時間放置。
再び火を入れて味噌を溶かし、塩加減を整える。いざ実食。……野菜、固し。 僕は味噌汁にあまり情熱を持たない人間なので、ここに至っては「まあいいか」と匙を投げることにした。
そして、その“固い野菜たち”をどう処理するかという問題が浮上した。
生ゴミ?いやいや、捨てるの面倒だ。 そこで、ふと思ったのだ――「人間が食べて消化したものを流す場所なら、野菜のぶつ切りもいけるんじゃないか?」という、安易な思考回路。
かつて、子供のころに嫌いだったほうれん草をトイレに流していた、あの甘酸っぱい思い出が、僕の背中を押したのかもしれない。
ドバドバと便器へ味噌汁を投入。水を流すと、野菜たちは吸い込まれていった……かと思いきや。 奥で詰まったのである。便器の水位がグングン上がり、ギリギリのところでストップ。自然界の力で守られた奇跡。
さあ、便器と人間との“戦い”の幕は開かれたのであった。
計画&実行
①素手チャレンジ 清掃済みの便器を信じて手を突っ込むも、野菜には届かず。
②ラバーカップ……却下。 そんな文明の利器は我が家にはないし、どこぞで売っているのか、探しに買いに行くのも面倒だ。
③ラップ作戦 便器にラップをかぶせて密封し、水を流す。水位が溜まりラップがポコポコと踊るも、成果ゼロ。しかし、この作業が妙に楽しく、何度も繰り返す。もちろん出てこない。
④ケミカル・アタック ついに薬剤の力を借りる決意を固め、スーパーで粉モノ、液体系、片っ端からカゴにぶち込む。 念のため、帰り道の電柱に貼ってあったトイレ修理屋の電話番号もパシャリ。
評価
薬剤、恐るべし。 近所のスーパーで粉だの液だのを買い込み、順番に「これでもか」とぶち込んでいったら、アラ不思議。 便器の奥から「ゴゴゴ……ズポン!」という効果音が聞こえてきたような気がした。いや、幻聴かもしれない。
ともかく、水の流れが見事に復活し、水を流すたびに「クボォォォン!」という、あの頼もしい吸引音が鳴り響く。 もしかしたら以前より元気になってるんじゃないかと思うほどで、便器がちょっとテンション高くなってるようにも感じられた。
今回の詰まりは“野菜”であった。植物である。自然の産物。 もしもこれが金属だったり、プラスチックだったり、あるいは……電動歯ブラシのヘッドなどだったりしたら、もはやこれは薬剤ごときの出る幕ではなく、 業者登場・高額請求・財布激震の三拍子揃うところだった。
というわけで私は誓ったのである。
もう、家で味噌汁は作らない。
味噌と、だしと、野菜たちが織りなす温もりのハーモニー。だがしかし、便器との相性は最悪だった。 味噌汁の余韻を残しつつ、今も我が家のトイレは、元気に水を飲み込んでいる。
いやあ、文明って、すばらしいですね。
