時計修理のご依頼がありました。
依頼者の修理の経緯を読んで、これは業者さんも修理作業を拒否される案件だと判断し、お受けすることにしました。
早速、故障した時計が届きました

いろいろ頑張られたのでしょう、努力の痕跡が見られます。
時計は「アルファロメオ ジュリアスーパー(前期型)」用だそうです。
文字盤には「Veglia Borletti」の文字があります。

中からはカラコロ音がしてます・・・何か部品が落ちてるんだろうな~
このまま電源を入れると、故障を増やす恐れがあるので、まず分解します。

中から出てきたのは・・・白いギヤと
プラスチックの短い棒です

ギヤ軸が折れていて、ギヤは転がってました。
多分、長短針駆動接続ギヤですね。重症!!!
・・・まあこれはこれで、電源投入!
・・・動きません
これは手ごわいかも。テンプに接続する回転振り子はユラユラするだけです。
でもユラユラってことは、動こうとしてはいるってことです。

では原因追及です。
オシロスコープで回路上を探ります。各部電圧ほぼ正常。
電子部品の劣化はありましたが、不動の原因は見つかりません。これなら動くはずだけどな~
時代にそぐわないコンデンサが付いています。真っ赤な楕円のがそれです。
タンタルコンデンサっていいます。もしかしたらこれかな~

このコンデンサは故障モードが短絡の危険なコンデンサーです。
充放電特性がピーキーで合わないのかも・・・
それでも動くくらいはするよな~
次は振り子コイル部分の確認です。0.03mm以下の線材です。
写真に半分写ってる緑の丸いのです。
ジジイの手では、さわるのも怖いです。で・・・正常でした。

次は機械的故障から捜索です。
電源を入れたまま、ひっくり返したり横向けたり・・・
すると時計を上下逆さにすると、少し振り子が動き始めました。
でも戻すとすぐ止まります。
とりあえず分解すると・・・
テンプに相当する軸の下側になる軸受けと軸の摩耗が見つかりました。
これは砥石を使って手仕上げで、針先をとがらすように磨いてゆきます。
砥石はけっこう得意です。この写真の軸の下側の軸受けです。

針先形状をお椀型軸受で受けています。
この時計この写真の向きで使うので、どうしても下側が摩耗してます。
振り子の動きはかなり良くなってきましたが、まだ駄目です。
何やが原因やねん!!!!
回転振り子には対向に永久磁石がついています。
これとコイル(電磁石)で振り子が動くのですが・・・確認のために磁束密度を測ります。
すごく雑にコイルを巻いたフラックステスターもどきを作って磁石を通してみます。
これで磁束密度の比較ができます。
・・ん、これかなぁ~!??
コイル正面側(下側)のフェライト磁石がかなり弱いなぁ・・・こんなセッティングなのかな〜
何で~~
まあ考えてもしょうがないし、再着磁する方法もないし、同じ磁石なんて見つからないし・・・
さっきのテストで、何とか動こうとする向きは見つかったのでこのまま使います。この写真の状態では動きません。

ここから磁石どうしの距離や、磁石とコイルの距離位置の調整などで、何とかするしかありません。
回転振り子を少しづつ曲げたり、ヒゲバネ調整したり、基板を削って磁石とコイルの適正位置を捜索したり。
・・・3時間ほど格闘し・・・
で、見つけました!
動きが安定する位置。
正規位置とはかなり異なりますが、何とかなりそうです。
この状態で動き始めました。かなりずれてますし、
間隔は少し広めですね。

変なポジションですが、片方の磁石の磁力不足だと思うので、仕方がありません。
でも、まあ動いたから、あとは何とかすればいいや!
次は、中から出てきたギヤと、細い樹脂軸です。
やはり短針と長針の最終段ギヤの軸でした。
接着剤の跡もありました。 まあ接着剤じゃ無理ですね・・・

で、真鍮で軸を再生させることにしました。
新たに挿入する軸より0.03mmほど小さい穴をあけます。
精密ボール盤もあるのですが、このくらい小さくて繊細だと、手仕上げの方が自信があります。

で、穴あけ完成

長い軸を入れてみて垂直度を確認します。なかなかの出来です。

軸を適正な長さに切って圧入。

ギヤを組み込んで・・・

ギヤを入れて組み立てていきます。

ほぼ完成・・・
全ての軸とギヤに時計用高品質オイルを薄く塗布していきます。
実際は、溶剤で希釈したオイルを塗り、溶剤がとぶと適正な塗布量になるような方法です
エージングは300時間ほどしましたが、やはり少し不安定です。
運針速度が、本当に合ったかなって感じたのは
、毎日2回〜4回調整しながら10日間ほど動かした後でした

まあ壊れていた部分は他にも もっとありますが、
そこはここで書くほどのことではないので・・・
オーナーさんも喜んでくれたようです。
良かった!