二つの穴 | 人生をピンセットでつまむ

二つの穴

今日も雨がアスファルトを黒く濡らしている。

こうした日が、もう何日続いているだろうか。

私は椅子に掛けながら、

窓越しに見えるこの風景を眺めている。

止めた筈のタバコをくわえ、

長々と肺に煙を送り込んでは、

それを空に吐き出した。

煙は明かりの灯っていない薄暗い部屋で、

空気の流れに沿い、曖昧に白く漂った後、

どこかへと消えて行った。


それは過去。


人形の女からは夜の匂いがし、

頭から皮袋を被った男は、

静かにこの椅子に掛け、

皮袋に丸く開いた二つの穴から、

何かを見ている。

私か人形の女か、

或いはそれは過去かもしれない。

皮袋の男は動くことはなく、

ただ静かに椅子に腰掛けている。


数日前からテレビはどの局も砂嵐ばかりを映し出し、

放送に終わりを告げていた。

最後に見たニュースでは、

錯乱したかの様なレポーターが、

逃げ惑う人々の状況を伝え、

カメラは崩壊した街を映し出していた。

原因は不明だと言う。


雨は激しさを増し、

アスファルトを叩きつけている。

私はもう電気の通っていない冷蔵庫から、

常温のビールを取り出し、

プルトップを指で引いた。

それは、プシュリといつもの音をたて蓋は開き、

私は喉へと流し込んだ。

苦味が口の中に広がっている。


家が燃え始めた。

少しづつ炎は広がるだろう。

最後に見たニュース映像。

崩壊する建物、燃え上がる炎と煙、

それと同じだ。

私は燃える家の中で、

ビールをもう一口飲み、

椅子に腰掛けた。

目の前のテーブルには、

穴が二つ開いた皮袋が置かれている。

私はそれをそっと手に持ち、

ゆっくりと味わう様に被った。

人形の女は部屋を焼く温度の為か、

美しかったはずの容姿を、

ドロドロと溶かし始めている。

私は二つの開いた穴から、

その光景を眺めた。

熱されて行く部屋の中で、

私は自分の実家が火事になった事を思い出していた。

オレンジ色の炎が建物全体を狂ったように包み、

燃える物全てを黒く変えてしまった事を。


二つの穴から私が見たものは、

過去でもなければ、未来でもなかった。

あの時と同じ、オレンジ色の炎だけだった。

目の前が狂ったオレンジに包まれて行く。




それはやがて、全てを黒く変えてしまうだろう。




私はただそう思った。