人生は回転である
むんずと前方を見据え、
力士みたいに中腰で両足を開いて立ち、
膝に両手を乗せた。
そんでもってその状態から、
尻の穴を覗くように股の下へと頭を突っ込む。
そして戻す。
1、2、3、4・・・
と掛け声出しつつその行為をくり返す。
するとやがてその股へ突っ込む勢いからか、
開いた両足が前方へと一回転する。
くるり。
着地。
「おおお!」
やはり私の回転理論は間違っていない事を知り、
私は更に勢い良く股へと頭を突っ込む。
くるり、くるり、くるり。
面白い様に私の体は回転し、
調子に乗ってそれを幾度も幾度もくり返す。
思うに正面から見れば、
高回転する私の体は、アルファベッドの『H』に見えたのではないだろうか。
だがしかし、私は部屋に一人でしかおらず、
その『H』を確認する事は出来ない。
けれども私は『H』である事を想像し、
一人六畳間の部屋で回転し続ける。
頭→股へ突っ込む→尻の穴確認→くるり!→回転
この順番で半永久的に回る勢い。
だが、ふと私はこの行為に退屈を感じた。
こんなにも回転してる私がこんな手狭な部屋で、
回っていてはもったいない!
そういう思いに、私こと物体『H』は気づいてしまったのである。
そうして『H』は更に回転を増し、
くるくるからぐるぐるへと変化して行ったのだ。
しかし、『H』はいっこうに前方へとは進まない。
その場をぐるぐると回っているだけだ。
『H』は回転の為か霞んで行く意識の中で、
刹那こう思ったのである。
『放屁』
「そう、前に進む力を放屁で得るのだ!」
『H』は素早くその考えに反応し、
「ブババババ!」そう音を放ち、
ほの暗い尻の穴から、
屁と言う推進力が外界へと飛び出したのである。
『H』は放屁の勢いでふわりと右斜め上方へと浮んだ。
放屁を射出するタイミングが早かった様である。
だから『H』は幾度も試し放屁を放ち、
前方へ進むタイミングを図った。
「ブバ!」そうほの暗い穴の闇から放たれた屁は、
回転する『H』を1m程前進させた。
そして、『H』は力強くこう思った。
「時は満ちたのだっ!!」
そうして、重い観音開きの鉄扉を開け回転する『H』は、
まだ見ぬ世界へと旅立ったのである。
広い広い世界、いや宇宙までもを目指して・・・
と記述された手記が平成21年7月5日、
我が家の敷地内にひっそりと佇む蔵から発見された。
私こと物体『H』は私(ソソマスク)の祖父であり、
この手記を書いたのが祖父であると私は父から知らされた。
私はくるくるぐるぐると『H』で回る祖父を想像し微笑んだ。
似ているのだ。
私と。
受け継がれた暖かな遺伝子を感じた。
父は回らぬが私は回る。
隔世遺伝。
祖父が回って眺めた世界そして宇宙を想い、
私もまたパタパタと音を上げ回転したのである。
ただ祖父と私は違う。
祖父はタイヤの様な縦回転。
私はプロペラの様な横回転。
違う回転が今、時を越え交わり、
新たな進化を遂げるであろう事を私は感じた。
そうして、私は竹とんぼの様に空へと舞い上がった。
梅雨の切れ間に浮ぶ青い空へ。
「ブババババ!」
どこからか放屁の音が聞こえる。
それはきっと祖父の音。
私の音に似ている音。