廊下
電球が薄っすらと天井から廊下を照らす。
目で見える限りでは、真っ直ぐにその廊下は延びている様だ。
通路の幅は1m程である。
その場所に立ち、遠くまで続く薄明かりを凝視し、
とりあえずポケットの中に入っていたラッキーストライクの箱を取り出す。
箱を開け、一本取り出し口にくわえると、紙に包まれた葉の匂いが、
鼻腔内にユラユラと広がって行くのを感じる。
私は、もう片方のポケットから100均で買ったライターを取り出し、
シュボっと言う小さな音をたてて火を点けた。
それを植物の根のように広がる肺へと、
細部まで行き渡らせる様に深く深く吸い込み、
肺の中でくるくると転がした後、
ゆっくりと空へと吐き出した。
吐き出された紫煙は綺麗な螺旋を描いて、
電球に白く照らされ、葉を焼いた匂いだけを残してどこかへと消えて行った。
私は、その煙草を床に投げ捨て足裏でグリグリと踏みつけた。
目を前方に見据え進む決意をする。
この廊下は一体何処へと繋がっているのだろうか。
後ろを振り返った。
背後にはベッタリと油性ペンキで塗り潰した様な黒色がある。
だから私は光を目指す蛾の様に、
先の光、先の光へと進んだ。
どれくらいこの廊下を歩いただろうか。
時にして一時間・・・二時間・・・十時間・・・
あるいは30分程度なのかもしれない。
薄闇が時間の感覚を曖昧にしていた。
時計はいつの間にか失われたのだから正確な時間を知る術はない。
今、そこにあるのは人間の不確かな感覚だけだ。
だが、気づけば目の前には一つの扉が出現していた。
見た目、重量感がありそうに思える。
その扉のノブにゆっくりと手を伸ばし回した。
カチャリと小さな軽い音でドアノブは半回転し、
それとは対称的に扉は、
ギギギギと地の底から這い出す様な音で前へと押し開かれた。
突如、カッ!っと光が目を射す。
あまりの落差に目を伏せるしかなす術がなかった。
目が焼けるように痛い。
しばらく涙が両目からボロボロボロボロと零れては廊下に滴り落ちた。
悲しみで零す涙ではなく、これは希望の涙だと確信した。
この光は出口に他ならない。
流れる涙を何度も腕で拭い、
ややの時を置いて視界を確保する事がやっと出来た。
そこには光の世界が広がっていた。
目の前には真っ白があった。
ただただどこまでも真っ白だった。
後ろには黒、前には白。
それらが無限に広がっている。
そうしてやっと気がついた。
私は何処にも行けやしないのだ。
ここから抜け出す術がない事をその時、
知ったのである。