追走 | 人生をピンセットでつまむ

追走

目と口に穴を開けた黒の皮袋を頭から被り、

夕暮れのカフェテラスでアイスココアを飲んだ。

この格好にはアイスココアは不釣合いな気がしたが、

飲みたかったのだからしょうがない。


カフェテラスから私は町並みを眺めた。

やや湿った生暖かい風が吹き不快感を与えた。

皮袋の中が徐々に蒸れだす。

滴る汗は首筋を蛇行し流れ、着ていたTシャツの首元を濡らした。

私はアイスココアのグラスを手に取りストロオを口に運び一口飲んだ。

すると突然、目の前の歩道を風の様に走る物体が横切る。

その物体に一瞬目を奪われ、次の瞬間には体が動き走り出していた。

物体を追う。

アイスココアの代金?

それは前払いの店だから問題ない。

私は持っている力の7割程を出し追った。

物体の背は見え距離は縮まっている。


やがて並走するまでに追いつくことが出来た。

その物体が何であるか確認する為に私は横を見やった。

モヤをまとったその向こうには人影が見えた。

そして、その人影はこちらを見て笑った様に見えた刹那、

それは更にスピードを上げ私から遠ざかる。

私は7割以上の力出す事を逡巡した。

それ以上の力を出す為には皮袋を脱がなければいけないからだ。

だが、その物体を確認したいと言う好奇心が勝ったその瞬間、

皮袋を横の植え込みに投げ捨て本来の姿で追った。

それの背は近づき私の持つ力の全てを出した。

背中を捕らえる距離まで来た。

私は左手をその左肩であろう人影にグイリッと伸ばした。

私の左手が吹き飛び後方に遠ざかっていく。

手首から先を失いそこから大量の血が流れている。

だが、やはり痛みよりも好奇心が勝っていた。

私は右口角をやや上げ笑った。

そして、そのモヤに包まれた物体に突っ込んで行った。

目の前が真っ白な世界に包まれ心地よい気分になった。

お前の正体はなんだ?

そう心の中で問いを投げかけた。

それに反応するかの様に物体、いや人は振り向いて笑った。

私は暗闇に包まれた。


死んだ?


おそらくはそうなのだろう。

その証拠にいつまでも闇は終わらなかった。

だから私はそっと目をつぶった。

そして、闇が闇に包まれた。