壁
目の前には遥か上空へとそびえる巨大な壁がある。
私は今その前に立ち頭上を見上げている。
そこには夕日に照らされた橙色の空が広がり、
雲もちらほらと浮かんでいる。
ここをどうしても超えなければならない。
私は腰の辺りの壁に、凄まじい勢いで右足を突きたてた。
その右足は壁にバコリッ!っと乾いた音をたて突き刺さった。
その突き刺さった壁からはサラサラと小さな壁屑が地表へと零れた。
私はそれをまじまじと眺めた後、右足を踏ん張り上へと登る。
そうして今度は壁に左手を大きく振りかぶり突きたてる。
右足と同様左手も突き刺さる。
私の手と足そして体は金属で作られている。
痛みはまるで感じない。
唯一、人として存在しているのは脳だけだと言ってよい。
元の体は時の流れと伴に失い、(必要がないと言う意味で)
今の体を手に入れた。
果たして神は(居ると考えたならば)こうなる事を予想していただろうか?
そんな思いを巡らせながら、私は動きを止め下を見下ろした。
眼下には先ほど見上げていた雲が橙色と藍色の二色に染まって見える。
そのフカフカとした雲に飛び降りたら乗れそうだな、などと思ってみるが、
それをやったなら真っ逆さまに落ちて行くだろう。
雲は決して固体ではなく、気体だと当たり前の思いに至る。
パラシュートを持たないスカイダイブ。
なにやら響きはよいが単なる身投げだ。
私はそうして下を見下ろした後、上方へと目を向け天辺を目指す。
バコリッ!バコリッ!
と規則正しい音をたて登る。
果てしなく見えるその壁に終わりがある事を信じて、
私はまた前方の壁に手を突きたてた。
壁から零れる屑がサラサラと空を舞い橙色の光に照らされ、
どこかへと飛んで行った。
それは儚く美しい光景だ。
どれ位の間登っただろうか。
気づけば、目の前には頂上付近が現れていた。
私は疲労困憊だったが目指した先が、
手の届く範囲に迫った事に高揚する気持ちを抑え、
残された力を振り絞り頂上へとよじ登った。
そしてついに天辺に立つ。
私の眼前にはどこまでも広がっている様な、
あまたの壁の頂上が雲に所々覆われながらも確認できた。
壁。壁。壁。
私はそれらを眺め立ち尽くした。
遠くから差す夕日が希望の色で私を照らし、
目の前に広がる無数の壁が絶望の色を帯び、
どこまでも。
どこまでも。
どこまでも。
続いている。
その光景はあまりにも美しく残酷だった。