パラレルワールド(トンカツ篇) | 人生をピンセットでつまむ

パラレルワールド(トンカツ篇)

あっつあつのトンカツを頭に乗せて、

町内をぐるぐると歩いていたのだけれど、

誰にも会うことが無く、

まるで異世界に入り込んだような気分になった。

もしかすると私は気づかぬうちに、

誰も存在しない世界に来てしまったのかもしれない。

そう思ったら、急にお腹がすいたので、

頭の上からトンカツを一切れ手に取り、

シュッッっと口の中に放り込んだ。

私は誰も存在しないかもしれない世界で、

トンカツをモグモグと咀嚼し、

胃の中へと落とし込んだ。

「うむ、むむむ、美味い!」

そう唸りを上げたものの誰も聞いてくれる人はいないので、

その発せられた言葉は独り言として中空に消えていった。

頭に乗せていた七切れのトンカツがこれで六切れとなる。

あ、ちなみにこれはロースカツだ。

私はヒレよりもロース派なのは意外と知られていない事実であると思う。

そんなロース派の私は、

この迷い込んだであろう世界をウロウロと彷徨いながら、

元の世界に戻る術を考える。


八ッ!!


っとひらめいた私は頭に乗せた六切れのトンカツを、

地面に並べ、それを右から順に数え6まで行くとそれを逆に戻り数える。


「1・2・3・4・5・6トンカツ・6・5・4・3・2・1トンカツ

 1・2・3・4・5・6トンカツ・6・5・4・3・2・1トンカツ

 1・2・3・4・5・6トンカツ・6・5・4・3・2・1トンカツ

 1!2!3!4!5!6トンカツ!6!5!4!3!2!1トンカツ!

 1!!2!!3!!4!!5!!6トンカツ!!

 6!!5!!4!!3!!2!!1トンカツ!!

 1!!!2!!!3!!!4!!!5!!!6トンカツ!!!

 6!!!5!!!4!!!3!!!2!!!1トンカツ!!!

 1!!!!2!!!!3!!!!4!!!!5!!!!6トンカツ!!!!

 6!!!!5!!!!4!!!!3!!!!2!!!!1トンカツ!!!!」


数える声に熱を帯び始めた頃、

六切れのトンカツがまばゆい光を放ち始め私を包んだ。

私は目が光線で真っ白の世界に誘われた。

いくばくかの時が経った頃、

私の目の前には先ほどと変わらない町並みが広がった。

ただ一つ、いや二つ違いがあるとするならば、

それは六切れのトンカツはどこかへと消え去り、

顔見知りのおっさんが目の前を歩いている事だ。

私はおっさんに静かに会釈し、

また町並をじっと眺めた。

いつもと何ら変わりの無い世界と時が流れている。

私は手を合わせ、

「ありがとう、ごちそうさまでした」

そう呟いた。


口の中にはまだほんのりとトンカツの味がしている。

それは幸せの味だ。