すばらしきこの世界
まどろむ様な暖かい昼の部屋の中で目を閉じて開いたら、
先ほどとは違った風景が目の前には広がっていた。
本来あったはずの天井から吊るされた裸電球、
枯れた匂いのする四畳半の畳、
薄汚れた万年床はどこかへと消え去り、
青い空、そこに美しく流れる白い雲、遠くまで広がる湖、
湖上の中央辺りに建つ金色の像が私の目の前には現れていた。
その先ほどとは違う風景を目の前に、
先ほど水を張って氷を入れたタライから取り出したビールを、
手にしていた事に気づき、
私はそのビールのプルトップをプシュリリと開け、
それを喉に流し込みながらぼ~っと目の前に広がるその新しい世界を眺めた。
体内では細胞が活性し一方では死を迎え、
いつしか排出されるだろう事を思った。
いくばくかの時間がそうして過ぎ去り、
気づけば前方の湖上からゆっくりとこちらに歩み寄ってくる、
女性であろう人を確認する事が出来た。
湖上を人が歩くなどと言う事はありえない事であるとは思うが、
この私が置かれた状況を考えれば無いことではないなと思ってみたりもする。
そんな女性に目を向けながら、
私は残りかけのぬるくなってしまったビールを口につけ、
全てを飲み干した。
『不味い』そう単純に思った。
気づけばその女性は目の前に立っていた。
顔立ちの整った美しい女性であり、
その全体から漂う雰囲気は知性を私に感じさせた。
私はその時「ほっ」っと音にならないため息をついた様な気がする。
そんな私を見て彼女はにっこりと静かに微笑み目の前に何かを差し出した。
私はそれを眺めた。
黒く美しい光を放つトカレフ。
私はそれを手に取り更にゆっくりと眺めた後、
こめかみに当てた。
私の目には彼女の風に心地よく揺れる髪と美しい顔が映っている。
とても暖かな目を私に向けている。
私は引き金を引いた。
パスッ!乾いた音と共に銃口を当てた逆のこめかみから、
何かが飛び出して私の目の前は暗闇に包まれた。
静寂。
目を開けると、裸電球がこうこうと私と部屋を照らし、
枯れた畳の匂いが鼻の中に流れ込んできた。
私は息を大きく吸い込んでそれを吐き出した。
手には重い冷たさを帯びたトカレフが握られ驚き、
私はそれを四畳半の畳に放り投げた。
ドスッ!!っと大きな音をたてて投げ出された様を私は眺めた。
目の前にはすばらしき世界が広がっている。